弾圧

家永三郎『猿楽能の思想史的考察』(法政大学出版局、1980年)です。
家永さんの専門は日本文化・思想史ですから、その面から能楽のありようをさぐっているのですが、その前段として、戦時中に能の内容に、皇室に対する不敬のものありと、改訂や上演自粛をその筋からおおせつかっていたというのです。関係者の中には、〈そんなのとりあえず隠しておいて、時が経てば復活させればいい〉と、一過性のものだろうと言ったひともいたのですが、結局は当局の示唆を受け入れ、自発的にいくつかの演目を詞章を変えたり、上演を自粛したりしたのだそうです。あげく、『皇軍艦』(みいくさぶね)という、時流にのった新作能までつくったとか。
戦時中の行動を簡単に断罪はできませんが、そこまでやったのか、という感じですね。