待っていた

『母が語る小林多喜二』(新日本出版社)です。
多喜二の姉の知り合いの方が、多喜二の母に聞き書きをして、それを出版する計画をたて、予告まで出ながら挫折し、結局原稿が小樽の文学館に保管されていた、という経過をたどったものを、今回荻野富士夫さんの注と解説をつけて刊行したのだそうです。
原稿自体も、荻野さんが聞き書きをされたかたのご遺族を訪ねたところ、小樽の文学館のものを清書しなおしておいたものが出てきたということで、それだけ思い入れが深かったのでしょう。
その原稿には、編者(聞き書きをされた方)の序文がついているのですが、その最初の日付が、戦後最初の総選挙の日、1946年4月10日になっています。戦争が終わって1年もたたないうちに、聞き書きをまとめて出版しようとされたのですね。それだけ、〈戦争が終われば〉と考えていた人が、実はけっこう存在していたということかもしれません。頭をさげて、嵐が通り過ぎるのをやり過ごそうとして、それがどの程度可能だったか、もう少し、考える必要があるのでしょう。