分裂

河出の世界文学全集の、『苦海浄土』です。
本編のほかに、「神々の村」「天の魚」と、3部作をすべて収録、ということのようです。
実際の、患者に寄り添った著者の道行きは、最後のほうでは、東京のチッソ本社でのすわりこみに一緒に参加し、そこで会社側とのやり取りをきちんと記録する立場になります。
それは、逆にいえば、すわりこみをする患者のグループ以外のひとたちと、どこかでみちをわけてしまった、ということにもなるのです。たとえば、訴訟を行った弁護団との断絶の声明を記録する、そのとき、そこにあらわれる排除の論理も含みこんで著者は立ってしまいます。それぞれのひとたちには、その人なりの考えもあるでしょう。基本的に会社側には立たなくても、著者の支援するひとたちと別のみちをゆくひともいたのでしょう。
そうした悲しさを、戦後、いや戦前からも日本の運動は抱えてきたのだと、あらためて思います。