なかじきり

勝谷誠彦さんの『ディアスポラ』(文藝春秋)です。
彼が2001年と2002年に『文学界』に発表した作品をまとめたものです。そんな昔の作品が、はじめて単行本になったのは、この2つの作品が、原子力施設の大事故で人が住めなくなった日本列島から避難した人と、残った人とを主人公としたからでしょう。
作者自身は、この二つで終わらせるつもりはなく、もう少しこの題材を重層的に扱おうとしたのではないかと思います。というのは、表題作はチベットを舞台にして、最初に自主的に避難してきたひとたちが流れていった先の姿を描いています。ほんとうにこの作品で描かれる「事故」の規模ならば、『日本沈没』のような、多面的な展開が可能だろうと考えられます。けれども、これらの作品を書いた後、作者はテレビに出たり、週刊誌のコラムを書いたりと、文芸誌での仕事をしなくなってしまいました。それで有名にはなったでしょうが。
とりあえず、これらの作品が容易に読めることはありがたいことです。