旅の恥は

石川達三武漢作戦』(文春文庫、1976年)です。
表題作は1939年1月の『中央公論』に発表され、1940年に単行本化されたとか。そのため、さくせんこうどうがらみのところには伏字などがあります。
長江をさかのぼって武漢に攻める日本軍のことを書いたものですが、淡々と書かれていて、書き手の存在が前面には出てきません。その点では、当事者性いっぱいの火野葦平とはやはり違うという感じはあります。
けれども、距離があるだけに見えるものもあるようで、占領地にあらわれる日本人商人の質の悪さへの言及は、鋭いものがあります。兵士相手に粗悪品の羊羹などを売りつけて利益をあげるという、本来の商取引とはいえないようなことを平然とやっているというのですね。戦前のほうが、こうした商法がまかり通っていたのでしょうね。