ヤヌス

平野啓一郎さんの『顔のない裸体たち』(新潮文庫、2008年、親本は2006年)です。
ネット上の投稿サイトに、性行為の画像を流していた男と、その対象になっていた女性を主人公にして(男女ともに公務員という設定です)、人間の姿とは何かを問いかけた作品です。
平野さんは、〈分人〉という概念を提唱して、人間には他者に見せる姿は多様であることを語っていますが、そのきざしともいうべき作品なのでしょう。職業があれば、どうしてもその職業のもつイメージで人はとらえられがちですが、別の分野では別の顔をもつことは、考えてみれば昔からあったことでしょう。医師太田正雄が詩人木下杢太郎であるというのなら社会的に認められるのでしょうが、それが性的なものになると、世間から軽んじられる、そうしたことへの問題提起ということなのでしょうか。