大回り

田中康夫さんの『33年後のなんとなく、クリスタル』(河出書房新社)です。
作者が昔書いた小説の登場人物たち(特に女性)と再会して、現在の日本と世界をめぐる情勢を語りあうという、ある意味でのメタフィクションともいうべき作品です。主人公はヤスオという名前が与えられていて、長野県知事や国会議員をつとめたと、作者と同じ経歴をもっています。昔の『なんとなく、クリスタル』の登場人物たちは、作者の当時の知りあいだったというのです。
当時は、学生のなかの一部にあった、〈リッチな〉生活を描いた作品だったため、その中の性愛描写も含めて相当興味本位で批判にさらされたように記憶していますが、その中にあった作者の批評精神は、その後の作者自身の歩みで、ある程度わかりやすくなっているのではないでしょうか。今回の作品では、登場人物たちがそれらしく年をとって、〈いいおとな〉になっているのですから、それにふさわしい問題を提起しているということにもなるでしょう。そこは、作者自身も、おとなの作品として仕上げようという意識もあるのでしょう。最初の〈もとクリ〉の作中の時間が、1980年の自民党が大勝したダブル選挙の直後であり、今回の〈いまクリ〉の時間が、〈ねじれ解消〉選挙の投票日からはじまっているのも、そのあらわれということになるのです。