ニュートラル

鳥羽耕史さんの『1950年代 「記録」の時代』(河出ブックス、2010年)です。
1950年代に各地でおこなわれたサークル運動や、反基地闘争、松川裁判やダム建設のルポや絵画、映画などの文化メディアの様相を、研究者として探ったものです。
鳥羽さんは、雑誌『人民文学』の復刻版の刊行にも中心的にかかわった人なので、そうしたサークル運動の側面から『人民文学』誌を検討したり、杉浦明平の福江を舞台にした作品をとりあげたりしています。
60年の歳月は、当時の状況を客観的にみることのできるようにはなっているので、この本で紹介された史実は、今の目から見直すことができるものではあるでしょう。たしかに、『人民文学』誌が、各地の運動を紹介し、その中から新しい書き手を生み出そうとしていたことはあったのですし、国民的歴史学運動とも関連しているようなところもあったでしょう。
それを、文学運動全体とあわせて、きちんと位置づけるのは、研究者ではなくて、評論家の仕事なのだとは思います。そこは、意識しておかなければなりません。