保存可能

岩崎昶『映画の前説』(合同出版、1981年)です。
著者が、東京小石川図書館で1966年から76年までの10年間続けておこなっていた、〈優秀映画を観る会〉の、上映に先立つ説明を文章化したものです。著者は、この本の刊行準備中に逝去したので、結果的に遺著というかたちになりました。
すべての作品の説明をまとめたのではないのですが、今井正山本薩夫黒澤明木下恵介のような、戦後日本映画を代表する監督の作品を、まとめて論じているところは、読みごたえがあるようです。
こうした非営利の上映のために、16ミリのプリントを使うようなのですが、説明のはしばしには、プリントが手に入らないので、この作品は上映をあきらめたというような文言が出てきます。そういう点が、映画の場合にはつきまとうし、プリントそのものの保存状態も、こうしたときには課題になります。
文字で構成される文学作品とちがって、フィルムという媒体のうえで記録される映像の保存に関しては、まだまだ知恵をはたらかせる必要があるのではないでしょうか。今後、デジタルリマスターが当たり前になっていくことが容易に予想されるのですから、ますます長期にわたる保存とは何かを考えなければならないのでしょう。