はざまで

石黒米治郎『つぎはぎだらけのスケッチ』(群青社、2004年)です。
石黒さんは戦後まもなく、鶴見の造船所で働きながら、岩藤雪夫に学んで文学にこころざし、当時の『勤労者文学』につどう一人として数えられました。その後、レッドパージにあい、いろいろな経過を経てしんぶん赤旗の記者になったということだそうです。
この作品集には、そのころの経験を題材にしたものが多く、表題作は1964年に、ソ連からの干渉に直面したときの編集局の動きを描いています。やや筆の運びに性急なところも感じられ、もう少しゆっくりと対象に迫れば、もっと深みが出たのではないかとも感ぜられるのですが、当時の状況を知るには貴重なものでしょう。
そのなかで、「日本のこえ」に走る人間から、主人公に働きかけがあるのですが、その内容が、編集者には中野重治崇拝者が多いので、我々の側に来ればそうした雑誌に紹介してやるという勧誘なのです。そうした編集者の側からすれば中野重治に敵対する文学運動など、存在を認めたくないのも当然でしょう。そういうことだったのですね。