2009-01-01から1年間の記事一覧

トップダウン

加藤陽子さんの『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(朝日出版社)です。 加藤さんが、神奈川のある中高一貫校の、歴史研究のクラブの生徒に対して行った講義をまとめたものです。 加藤さんは、近代日本史を、政治家の動向を中心に押さえようとしていま…

こればっかり

このところ、訃報ばかりが目につきます。水野忠夫・庄野潤三・大江志乃夫というように。 ロシア文学の世界も、翻訳者が代替わりということを感じさせましたし、〈第三の新人〉の歴史的な立場ということも考えましたし、日本近代史研究も、様変わりということ…

口実

大江健三郎さんの『燃えあがる緑の木』(全3冊、新潮文庫、1998年、親本は1993年から1995年にかけて)です。 愛媛のいつもの大江さんの世界に、新しく〈教会〉ができて、それが崩れていく過程を描いた作品なのですが、その〈教会〉に、外部からの干渉がはい…

棄てたもの

娘の大学のある街に行ってきました。 古い都のあるまちで、その当時からある寺社が、いまも人々を集めています。 当時の都の跡地は、公園のような形になっていて、犬を連れて散歩する人や、キャッチボールをしてあそぶ子どもたちもいます。その一角で、間近…

筋をとおす

永井潔さんの『あの頃のこと今のこと』(日本美術会、2008年)です。 『美術運動』誌に1988年から1998年にかけて連載されたエッセイをまとめたものです。戦後の日本美術会創立のころの回想が中心なのですが、当時のさまざまな動きがしのばれます。 文学の世…

たいしたことではなくはない

鈴木宗男議員が、衆議院の常任委員会の委員長になることをめぐって、与野党の意見が分かれて、調整ができなかったという報道がありました。 そのときの映像をみていると、社民党の辻元代議士が、その場にいます。連立与党の国対関係でいるのだなと、そのとき…

洞察

『古在由重著作集 第6巻』のつづきです。 1944年の古在さんの日記が収録されているのですが、そこに書かれた生活のいろいろも興味深いのですが、古在さんは、日記の中に、当時の新聞記事を貼り付けているようなのです。多くはヨーロッパの情勢で、東部戦線で…

同音

『古在由重著作集 第6巻』(勁草書房、1967年)からです。 この巻は、1944年の日記がメインなのですが、戦時中や獄中でのメモなど、いわば雑纂的な巻ですが、そのなかに、戦時中の回想があります。ある知り合いにあった古在さん、 「最近は碁学ばかりやって…

入り口

栗栖継さんがなくなられたということを、ようやく知りました。 岩波文庫で、『兵士シュヴェイクの冒険』とか、『山椒魚戦争』とかを読んで、チェコ文学の世界を知ったことが、思い浮かびます。 徳永直と組んだ〈声明〉のこととか、いろいろと思うところもな…

長い目で

中高入試の過去問を出版することで有名な出版社が、著作権の問題で訴えられたそうです。(朝日新聞に記事がありました) 訴えた人たちは、ある著作権団体に加入しているひとたちで、そこは以前から、そうした副教材や問題集への二次利用に関しての著作者の権…

ちょっとの違い

内容の話でなくてもうしわけないのですが、講談社文芸文庫から、室生犀星の『哈爾濱詩集・大陸の琴』が出たのですが、著者表示が「むろお」になっているのです。アルファベットの表記も「muroo」なんですね。 あれっと、思って、角川文庫の詩集(1999年)と…

謙虚

報道によると、民主党は、衆議院の正副議長両方よこせと主張しているそうです。この前も書きましたが、小選挙区でも比例でも、5割の得票を得ていないのに、結果的に300議席をとっているわけですから、そこをどう考えるかでしょうか。 官僚主導を排しながら、…

パンデミック

娘が大学を受けたときに、いわゆる〈赤本〉と呼ばれる、入試の過去問集を買っていたのですが、その中に、小説の問題がありました。 これも、最近は著作権にうるさい人があらわれて、ある年など、センター試験の問題文が白紙になったこともあったのですが、そ…

線を引く

田中克彦さんの『ノモンハン戦争』(岩波新書)です。 ソ連崩壊以来、いろいろな史料や研究が出てきて、モンゴル・ソ連側の情報と、日本側の情報とをつきあわせることができるようになったという状況のもとで書かれたものです。戦闘の経過よりも、そこにいた…

担い手

新船海三郎さんの、『鞍馬天狗はどこへ行く』(新日本出版社)です。 幕末維新を扱った、いくつかの小説を紹介しながら、当時の社会をどう考えたらよいのかという問いかけの本です。 扱われた作品をみると、幕末維新の動乱の時代を、〈勝者〉の目でとらえた…

事実は事実

武田知弘さんの『ヒトラーの経済政策』(祥伝社新書)です。 NSDAP時代のドイツの、なるべく『光』の面を取り上げようというところにねらいがあるようです。たしかに、当時のドイツが、ある意味開発独裁的なところもあるので、そういう側面からのアプローチ…

とりあえずデータです

総選挙の、比例の得票の全国合計です。 ○民主 29,844,729 42.4% ○自民 18,810,217 26.7% ○公明 8,054,007 11.4% ○共産 4,943,886 7.0% ○社民 3,006,160 4.3% ○みんな 3,005,199 4.3% ○国民 1,219,767 1.7% ○日本 528,171 0.8% ○幸福 459,450 0.7% ○大地 433,…

レベルをたもつ

横尾弘一さんの『都市対抗野球に明日はあるか』(ダイヤモンド社)です。 ふっと、目に留まったので、急いで読んでみたのですが、中のエピソードで、考えたことが少し。 東京地区のある企業チームが、野球部をつぶすことになったとき、かつての名門チーム(…

これも戦後

永井荷風『秋の女』(河出文庫、1955年、文庫編集オリジナル)です。 荷風の戦後の短編をあつめたもので、スケッチ風の小品が主です。 石川淳は荷風が亡くなったとき、「敗荷落日」という文章を書いて、戦後の荷風はただの老人だという趣旨のことを言いまし…

切り口

天野正子・桜井厚『「モノと女」の戦後史』(平凡社ライブラリー、2003年、親本は1992年)と、天野正子・石谷二郎『モノと男の戦後史』(吉川弘文館、2008年)です。 これにあわせて、〈こども〉とで三部作らしいのですが、とりあえず2冊を。 大きなテーマで…

スケールの大きさ

森まゆみさんの『女三人のシベリア鉄道』(集英社)です。 『すばる』連載中にも、ロシアの現状を書いた部分を取り上げた記憶もありますが、改めて通して読んでみました。 与謝野晶子、中条百合子、林芙美子の三人を軸にしているのですが、それと森さん自身…

プロセス

渡辺和靖さんの『保田與重郎研究』(ぺりかん社、2004年)です。 保田の、初期の作品を分析して、彼の思考がどのように先人のものを受け継いでいるのかということを論証しています。 保田は、奈良県の桜井市に生まれ、県立畝傍中学から大阪高校に進んだので…

節操

中野重治の、没後30年の命日だそうです。 中野の出処進退に関しては、いろいろと意見もあるでしょうが、『甲乙丙丁』のなかで、主人公は、自分が中央委員なのに、党大会で議決権のない評議員として出席したことを、屈辱のように感じています。 これは変な話…

先入観

今日は、島崎藤村の命日だそうです。没後66年ということですね。 藤村といえば、中学のころに『破戒』を読んだのですが、私の育った環境では、そういう社会は近くになかったので、あまり切実には感じられませんでした。 高校のころに、中村光夫の『風俗小説…

類似

この前書いた、『気骨の判決』のドラマの中で、翼賛選挙を推進する側の言い分として、『個人が国家に対して何ができるかを考え、推薦候補に投票しよう』というのがありました。いわゆるケネディ演説をちょっと思い出してしまいました。ケネディと東条英機を…

バランスをとる

中公文庫で、昨年から『世界の歴史』のシリーズが出ています。1990年代半ばからハードカバーで刊行されたものを文庫化して、最新のあとがきをつけるというのが、今回の基本のようです。いちおう、高校で世界史を習ったくらいの人を読者として想定しているよ…

長いものに

昨日、NHK総合で放映された、翼賛選挙に関するドラマを観ました。 『昭和史の瞬間』(朝日新聞社、1966年)をみると、ドラマでは裁判長は実名ですが、それ以外の、ドラマで仮名になっていた人たちが、どのように推薦候補を押し付けていたかが書かれています。…

平静さ

8月15日というわけで、宮脇俊三さんの『時刻表昭和史』(角川選書、1980年)です。宮脇さんの思い出を、列車によせた作品で、その最終場面が玉音放送の後、平常通りに列車が走っていたというところなのです。 こういう形での思い出は貴重なものだと、昔読んだ…

裏返し

ポール・ラファルグ『怠ける権利』(田淵晋也訳、平凡社ライブラリー、2008年、親本は1972年)です。 もともとは、1880年に発表された表題論文に、似たような発想の文章をあわせたものです。ラファルグは、マルクスの娘婿にあたるフランスの革命家なのですが…

深読み

井波律子さんの『中国の五大小説』(岩波新書、全2冊)です。 『三国志演義』『西遊記』『水滸伝』『金瓶梅』『紅楼夢』の五つの作品についての考察なのですが、内容の概説書としても、たぶん知らない人でも、わかりやすい入門になっているように見えます。…