担い手

新船海三郎さんの、『鞍馬天狗はどこへ行く』(新日本出版社)です。
幕末維新を扱った、いくつかの小説を紹介しながら、当時の社会をどう考えたらよいのかという問いかけの本です。
扱われた作品をみると、幕末維新の動乱の時代を、〈勝者〉の目でとらえたものはほとんどありません。変動のなかで、いろいろな意味で犠牲になったひとたちを描いた作品に、新船さんの目は届いています。
そこには、本庄陸男の『石狩川』を論じながら、戦時中から戦後にかけて、空襲罹災者に北海道の土地を紹介するという〈事業〉が、実質的に〈棄民〉であったことと結びつけるような、時代への洞察とも連関しています。
前に、会津生き残りの東海散士の『佳人之奇遇』にふれたとき、作者がのちに谷干城の知己を得て海外に赴いたことを書いたと思いますが、谷は維新のとき、会津〈征伐〉軍に加わっていたのですね。その人間に対して、東海散士柴四朗(柴五郎の兄です)はどういうつもりで接近したのでしょうか。そんなことも思ってしまいました。
でも、こうならべると、たしかに、作品は武家の世界を描いているのがほとんどです。そこに新船さんも注意を喚起しています。それは、これから気にしなければならないことでしょう。