筋をとおす

永井潔さんの『あの頃のこと今のこと』(日本美術会、2008年)です。
『美術運動』誌に1988年から1998年にかけて連載されたエッセイをまとめたものです。戦後の日本美術会創立のころの回想が中心なのですが、当時のさまざまな動きがしのばれます。
文学の世界では、宮本百合子や蔵原惟人、中野重治のような人たちが中心で動いたようには、美術の世界はいかなかったようで、ある意味〈新進〉の人たちが中心になっていたようなところがあったようです。
創造運動は、やはり生み出した成果ではかられるものですから、そこのところを、しっかりとにぎって放さないことなのでしょう。
当時、冬芽書房という出版社があって、民主主義文学の作品なども出版していたのですが(小沢清の作品など)、そこが、日本美術会と提携して美術雑誌も出していたのだそうです。しかし、日本共産党の〈五〇年問題〉のなかで、出版社をおこした人が、〈地下〉の指導部と近かったので、その美術雑誌をそうした流れの雑誌に変えようと画策したのだそうです。そこで、日本美術会はその雑誌から手を引くこととなり、雑誌自体もなくなってしまったというのです。
そうした、負の歴史も、きちんと知っておかなくてはいけないのでしょう。