線を引く

田中克彦さんの『ノモンハン戦争』(岩波新書)です。
ソ連崩壊以来、いろいろな史料や研究が出てきて、モンゴル・ソ連側の情報と、日本側の情報とをつきあわせることができるようになったという状況のもとで書かれたものです。戦闘の経過よりも、そこにいたるモンゴルの人たちのあゆみが中心になっています。モンゴルの人たちには、〈満洲国〉が、たんなる〈偽〉とはいえない、複雑な色合いのものというのも、考えさせられます。
中国からは、田中さんは〈三蒙統一〉の橋渡しをする危険人物だと思われているようです。いまの国境線をともかくも中国が維持したいとおもっているのは、チベットウイグルをめぐるいろいろなできごとからもわかるのですが、モンゴルにおいても、内モンゴル自治区を、中華人民共和国の中におくということなのでしょう。ヤルタ会談で、〈外モンゴル〉の〈現状維持〉がはかられたということで、それが、モンゴルを現在の状態にしたということなのですね。
国境線は、人為的なものだというのに、それが、いろいろなものを区分けしてしまうのですね。
厳密な意味での国境ではありませんが、イムジン河の上流のダムの放水が下流に知らされなかったために、川の増水のために死者・行方不明者まで出たというニュースもあります。
なんとか、そうした線の性質が変わる日がくるといいですね。