2010-01-01から1年間の記事一覧

箸休め

現代教養文庫『江戸の戯作絵本』の第2巻(1981年)です。 江戸時代の戯作、黄表紙の集成です。全巻そろえたのはけっこう前なのですが、こうしたものは集中して読むものではないような感じがして、しばらく放っておいたのですが、しばらくぶりに読んでみたと…

切り口

『仙洞田一彦のショート・ショート集』(青磁社、1985年)です。 仙洞田さんが労働組合の機関紙に書いたものをあつめたものです。最初のころの作品には、オチをつけようとして、うまく回りきれていないものもみえますが、だんだんと焦点が定まってくるように…

それをいうなら

新潮社の『現代ソヴェト文学18人集』の第3巻(1967年)に、江川卓が解説を書いています。 この巻には、1960年代の作品が収められていて、当時のソ連のいろいろな潮流が見えるのですが、江川は解説でこういいます。「スターリン時代に生きたことの意味、さら…

結界

水上勉『私版京都図絵』(福武文庫、1986年、親本は1980年)です。 作者はご存知の方も多いでしょうが、若狭の村から禅寺に修行に出て、京都で少年期を送っています。そのかかわりのあった土地を、1970年代の後半に思い起こしながら書いた連続エッセイです。…

戸籍上

高齢者の〈生存〉問題がやかましいですが、そういう方のなかには、ひょっとしたら次のようなケースもあるのではないかとも思います。 たしか上田茂樹ではなかったかと思いますが、戦前地下活動中に消息を絶ち、そのままになってしまったとか聞いています。岩…

本音

週刊ダイヤモンドの今週号は、「解雇解禁 タダ乗り正社員をクビにせよ」という大きな文字が表紙を飾っています。 要するに、派遣規制は労働者の保護にはつながらないというのです。 よくもここまでとも思いますが、こうした記事に納得してしまう人もいるので…

傷の深さ

新潮社刊行の『現代ソヴェト文学18人集』(1967年)の第1巻です。 これは、当時マイナーだったソビエトロシアの作家たちの本邦初訳作品をあつめたもので、第1巻にはザミャーチンやプラトーノフなどが収録されています。 その中で、パーベリやヤセンスキーの…

上と下

山室寛之さんの『野球と戦争』(中公新書)です。 1940年代に、戦時下で日本の野球がどのように困難に立ち向かったか、圧力に負けていったのかを、学生野球や職業野球のいろいろなエピソードをおさえて書かれています。1942年の甲子園での中等野球とか、1943…

分けること

杉原四郎『マルクス・エンゲルス文献抄』(未来社、1972年)です。 著者が、いろいろなところに発表した、マルクスやエンゲルスについての論考や、書評などを集成したものです。マルクスに対してエンゲルスへの関心が低い状況に対して、エンゲルスの思想家と…

自分で言っている

今年の終戦記念日に、閣僚が靖国神社に参拝しなかったことに関して、安倍晋三元首相が、〈信教の自由〉からいっていかがなものかと反発したそうです。〈信教〉というからには、靖国神社は神道の宗教施設であって、そこに参拝することは、一般的な戦没者追悼…

網の目

愛知一中の軍隊への〈志願〉を題材にしたドラマを見ました。 昔の中等以上の学校には〈配属将校〉なるものがいて、軍事教練の単位が取得できないと卒業もできないという形で(その代わりに、卒業生には、兵役ですぐに幹部候補生になれるなどの優遇措置もあっ…

楽観

ジョレス・メドヴェージェフ『ソ連における科学と政治』(熊井譲治訳、みすず書房、1980年、原著は1978年)です。 著者は、ソ連から追放された科学者ですが、ソルジェニーツィンのように社会主義の思想に対して懐疑的な人ではないようで、この本でも、ソ連の…

つらさから

今月の文芸誌では、闘病記がめだちます。『文学界』では小谷野敦さんが母親の肺がんを、『民主文学』では増田勝さんが妻の乳がんを描いています。『新潮』にも絲山秋子さんの、自分自身と思われる作家の腫瘍の話があります。 絲山さんのは、本人なので少し別…

さて、どうだか

いくつか承服しがたいことすこし。 司法修習生の〈学費〉が、〈支給〉から〈貸与〉に変わるようです。弁護士になるのなら、高額な報酬を要求することもできましょうが、検事や判事になったら、俸給で生活するしかないのですから、まるで看護師の〈お礼奉公〉…

いごごちの悪さ

ミハイル・ブルガーコフ『悪魔物語』(水野忠夫訳、集英社、1971年、翻訳底本は1924年)です。 この人は、終始ソビエト政権に対して、シニカルな眼でみているようです。統治機構がうまくまわっていない姿が、いろいろな手段で描かれます。 やはりおもしろい…

わかるかどうか

繁沢敦子さんの『原爆と検閲』(中公新書)です。 1945年9月に、ヒロシマ・ナガサキに入った、米軍とともに行動していた記者たちが、どんな記事を書き、どう発表されたのかをさぐっています。最初は被害の実相をそれなりに書いていたものが、だんだんと残留…

裏づけ

ついついBS-2の山本薩夫監督特集をみてしまったのですが、東宝争議で会社を追放されて、独立プロで映画を作り続け、それを地道に普及し続け、そして、五社協定などの妨害もはねのけて、ふたたび会社で大作を作れるようになるプロセスを追っていました。 もち…

ひょうたんから

岩波新書『日本の近現代史をどう見るか』です。 井上勝生さんの『幕末・維新』からはじまった、日本近現代史のシリーズの最終巻ですが、たしか最初はある人の個人による〈まとめ〉的なものを予定していたようですが、結果的には、9人の著者によるやや長めの…

言いっぱなし

『図書』8月号の復本一郎さんの文章で、正岡子規が中江兆民の『一年有半』を批判していて、それは兆民が短歌や俳句をその中でコケにしていたからだろうという部分がありました。 たしかに、『一年有半』には、けっこう無責任な発言もあって、当時の相撲に関…

イメージの固定

鈴木淳さんの『維新の構想と展開』(講談社学術文庫日本の歴史20、親本は2002年)です。 帝国憲法までの時代を、維新構想の国民的合意形成という側面からとらえたもので、民権派にとっても、憲法がある程度の合意できるものであったことを、地方制度とのかか…

虚業の基盤

岡村民夫さんの『イーハトーブ温泉学』(みすず書房、2008年)です。 宮沢賢治と、花巻近郊の温泉開発とのかかわりを探求したもので、地元の名家としての宮沢一族と、業界とのつながりが興味をひきます。 1920年代、花巻郊外に開かれた花巻温泉は、家族連れ…

よりどころ

樋口浩造さんの『「江戸」の批判的系譜学』(ぺりかん社、2009年)です。 江戸時代のテキストを、時代とかかわるものとして取り上げてみようという観点から、当時のナショナリズムのありようについて考察したものです。 その中で、日本でも朝鮮でも、「泰伯…

あったもの

原武史さんの『沿線風景』(講談社)です。 まえに、原さんと重松清さんの対談をここであつかったときも、『滝山コミューン一九七四』のときも、感じたのですが、原さんは、きちんとあったことを記録しておこうとする方のようです。 というのも、一般的な戦…

くふう

兵頭勉さんの『火を継ぐもの』(日本民主主義文学会弘前支部、2009年)です。 兵頭さんは、弘前支部で長く活躍されている方で、この本は、1969年から2008年までの間に弘前で行われた小林多喜二を記念する催しで、兵頭さんが行った講演を『弘前民主文学』誌に…

いろいろな場所で

南元子さん(1934-2009)の、『夢、そのとき』(本の泉社)です。 南さんは長く民主主義文学会の奈良支部で活動されてきた方で、昨年なくなられたあと、支部のかたがたが中心となって、『民主文学』や奈良支部の支部誌に発表した作品から選んで本にまとめた…

ともかく紹介

思わず衝動買いしてしまったのですが、交通新聞社から、『復刻版 昭和43年10月貨物時刻表』が出ました。 今は年1回出ているのですが、説明によるとこのとき新しくつくられたような感じです。 この1968年10月のダイヤ改正は、けっこう全国的な大がかりなもの…

年齢

中上健次の『枯木灘』(河出書房新社、1977年)です。 ぐちゃぐちゃした人間関係に閉口しながらも、そのしがらみの中で生きようとしておきる悲劇は、それとして感じることができるのですが、主人公の秋幸が26歳で、周囲に対して十分なおとなとして振る舞おう…

荒れ

井上ひさしさんの単行本未収録だった作品『一週間』(新潮社、初出は2000年から2006年にかけて断続的に『小説新潮』誌に掲載)です。 シベリア抑留中の元非合法活動家だった小松という人物が、ふとしたきっかけからレーニンの手紙なるものを入手します。そこ…

論理をまわす

選挙が終わりました。 非拘束式比例代表というのは、けっこう酷な制度で、この地域の重点候補が当選しても、すなおに喜べません。もちろん、結果としてたくさん議席がとれるほど得票があればいいのですが。さて、高校時代に、数学で、論理学的なものを習いま…

内容の選択

大木康さんの『中国明末のメディア革命』(刀水書房、2009年)です。 大木さんは前にも書いたかもしれませんが、私の中学高校の2学年上級の方で、たしか文化祭のときに、〈漢詩のつくりかた〉のような本を読んでいたような記憶がおぼろにあります(ちがって…