つらさから

今月の文芸誌では、闘病記がめだちます。『文学界』では小谷野敦さんが母親の肺がんを、『民主文学』では増田勝さんが妻の乳がんを描いています。『新潮』にも絲山秋子さんの、自分自身と思われる作家の腫瘍の話があります。
絲山さんのは、本人なので少し別でしょうが、小谷野さんと増田さんは、いずれもその方が亡くなります。その点では、読んでいていろいろとご心労のことだったろうと思うのですが、こうした作品の先駆といえば、堀辰雄の『風立ちぬ』を思い起こすわけで、死の場面というよりも、死んだ後に遺されたものの心境にせまるところに、文学作品として生きるポイントがあるのではないかとも思うのです。小谷野さんの作品で言えば、父親のトボケたような行動が、母親とのかけがえのない別れを、よりインパクトのあるものにしているようです。
増田さんも、そういうところまで書くことに挑戦してほしかった、という感じですね。きついことを言っているとは思いますが。