分けること

杉原四郎『マルクス・エンゲルス文献抄』(未来社、1972年)です。
著者が、いろいろなところに発表した、マルクスエンゲルスについての論考や、書評などを集成したものです。マルクスに対してエンゲルスへの関心が低い状況に対して、エンゲルスの思想家としての意義を押し出そうとする文章も多くあります。
1970年前後の風潮もあるのでしょうが、エンゲルスを〈マルクスをゆがめた〉とする意見に対しても、そことは一線を画すという姿勢もみえます。
最近も、筑摩書房で〈マルクス・コレクション〉とかいって、エンゲルスと切り離したマルクス理解に基づく〈著作集〉が出るなど、そうした〈切り離し〉のかたちでマルクスをとらえようとする動きがあります。同様のことは、『蟹工船』だけをとりあげて小林多喜二を扱おうとしたり、さらにはほかのプロレタリア文学運動や民主主義文学運動の人たちに対して冷笑や無視で応えたりするような方向とか、〈毒〉を抜いて〈ここまでなら存在を認める〉ような、それが〈今までとはちがう新しい〉とらえ方のように思わせることで、本当に必要としている人たちの関心をそらそうとしているのではないかと疑いの眼をむけたくなるようなものもまぎれ込んでいるように思います。