2010-01-01から1年間の記事一覧

通過ポイント

とある若手俳優が、とても巨額の賞金を出すエンターテインメント系の文学賞に応募したら、入選が決まったそうです。で、その方は、なぜか賞金を辞退するとかいう報道もありました。 辞退するくらいなら、なぜその賞に応募したのかが解せないのですが、自分の…

編年体

野本陽代さんの『太陽系大紀行』(岩波新書)です。 こうした入門書は、よく工夫されているのですが、この本では、惑星・衛星探査の歴史を、対象の星ごとではなく、年代順に構成しています。それによって、何が試みられ、何ができ、何ができなかったかが、つ…

色の力

玉利勲『装飾古墳』(平凡社カラー新書、1978年)です。 主に北九州に分布する装飾古墳の現状を記したもので、当時やっと緒についたばかりの、保存の状態にも批評の目が向いています。 いくつかの古墳は、1930年代から石室内に装飾が施されていたのがわかっ…

遺したもの

『加藤周一自選集』10(岩波書店)です。 最晩年の著作と、著作目録がメインの巻で、そのために手に入れたようなものですが、ほとんどが『夕陽妄語』のシリーズで、短いながら、鋭い指摘がなされています。 著作目録も、年代順に記載されていて、これで、平…

記憶の底

『新婦人しんぶん』10月21日号のRANKOさんのマンガです。 チリの鉱山からの救出の話題をきっかけにして、〈おとうさん〉がさりげなくネルーダの詩集を手にして現れ、〈ベンセレーモス〉の歌をくちずさみながら、地球儀をみています。 そういえば、救出された…

作っておけば

『民主文学』11月号に、鶴岡征雄さんの作品が載っています。「単線駅舎のある町で」というタイトルで、1952年の茨城県のある町を舞台に、少年の心の動きを追った作品です。 この作品で、大きな舞台装置となるのが、この町に大相撲の一行が巡業にくるというと…

期待はする

増田勝さんの『冬の景色は』(本の泉社)です。 作者の妻(藤林和子)の死を題材にした作品集で、ガンのために死んでゆく妻と、遺されるものたちの生き方を描いています。 昔だったら、文学の題材として、〈結核〉が死につながる病として多く出てきたのです…

基盤

伊藤之雄さんの『政党政治と天皇』(講談社学術文庫日本の歴史22、親本は2002年)です。 1910年代から1930年代初頭までの、日本における政党政治が定着して、五・一五事件で政党内閣が壊れるまでの時期を扱っています。このシリーズでは、一つ前の巻でも、佐…

動き

検索サイトのトップニュースをみていたら、沖縄の知事選で、沖縄出身で、与党の参議院議員だった歌手だった人が、出馬したいといっているそうです。与党の立場を利用しようというのでしょうか。 もちろん、歌手だったひとが、自分の信条に従って、政治家とし…

結託

立松和平『今も時だ・ブリキの北回帰線』(福武文庫、1986年)です。収録作品の初出は出ていないのですが、1978年刊行の単行本が初刊だと記されています。 表題作は、暴力学生(黒いヘルメットだそうです)が占拠する大学で、ジャズピアニストがコンサートを…

便乗

高橋秀美『おすもうさん』(草思社)です。 相撲とは何かという、答えが出るようで出ないものを、いろいろな関係者への取材であきらかにしようとしたものです。 実際、もともとは大男が取っ組み合う興行だったものを、いろいろと理屈をつけて、日本の文化伝…

学部はちがった

紅野敏郎さんが亡くなられたと聞きました。 私は文学部で、竹盛天勇(本を書くときは天雄とされていました)先生に卒論を出したので、教育学部の紅野さんには、直接教わる機会はなかったのでした。ただ、一度、教育学部で履修する国語科教育法の授業の担当者…

かけあい

旧版『荷風全集』(岩波書店)第27巻(1965年)です。 この巻は、談話筆記と合評会なのですが、この合評は、1920年前後の演劇に関するものなのです。全集の後記によれば、『新演芸』という雑誌に掲載されたもので、メンバーは、岡本綺堂とか、池田大伍や、久…

一身にして

クリスタ・ヴォルフ『クリスタ・Tの追想』(藤本淳雄訳、河出書房新社、1971年、原著は1968年)です。 作者と同じ名前の「クリスタ」という女性を、友人が回想するという設定ですが、「クリスタ」さんは、1963年に35歳で亡くなったという設定になっています…

東へ

旧版の『荷風全集』(岩波書店)の第12巻(1963年)です。戯曲の巻です。 東京日本橋生まれの谷崎が西に向かったのに対して、東京小石川生まれの荷風は東に向いていたような気がします。浅草、向島(玉ノ井)、荒川放水路、葛飾、そして市川菅野と、欧米の実…

あこがれ

谷崎潤一郎『吉野葛・蘆刈』(岩波文庫、1986年改版)です。 作品自体は、「吉野葛」が1931年、「蘆刈」が1932年のものです。いずれも、ある土地に惹かれて作者がそこを訪れ、それを契機に物語の語り手から、かれの慕情を聞くという設定になっています。そこ…

つながる道

鈴木太郎さんの詩集『八月の存在』(詩人会議出版)です。 鈴木さんは、詩人会議に所属しています。詩人会議とは壺井繁治や大島博光の流れをくむ集団で、黒田三郎も議長をつとめていました。 鈴木さんは、1960年の安保闘争のころから、詩をとおした社会への…

正攻法

北村隆志さんの『反貧困の文学』(学習の友社)です。 普通の本屋にはなかなか出回りそうにないので、結局、版元のある全労連会館まで行って買ってきました。 漱石の「坑夫」から井上ひさし「組曲虐殺」まで、プロレタリア文学や民主主義文学の作品をとりあ…

媒介

今日は花田清輝の命日だそうです。 それをみて、ふと、〈前近代を否定的媒介にして近代をのりこえる〉という花田の主張を〈うけつぐ〉といっている人たちのやっていることを、〈『否定的媒介』ではなく単なる『媒介』ではないか〉と誰かが批判していたという…

離陸

郭沫若『中国古代の思想家たち』(岩波書店、野原四郎ほか訳、全2冊、上巻は1953年・下巻は1957年、原題は『十批判書』、初版は1945年、翻訳底本は1950年の改訂版)です。 いわゆる諸子百家と呼ばれる、先秦時代の思想家たちの事跡を、古書から組み合わせて…

広告・宣伝

『加藤周一著作集』18(平凡社)です。 もともとこの著作集は、1978年に刊行が開始され、そのときは15巻だったのですが、その後、1990年代に9冊追加して、全24巻となりました。ところが、その中の第18巻が未刊のまま加藤さんは逝去され、しばらく中断状態に…

出処進退

手塚治虫『漫画の奥義』(光文社知恵の森文庫、2007年、親本は1992年)です。 石子順さんを聞き手とするインタビュー(初出掲載誌はもちろん手塚生前のものです)を没後まとめたものですが、手塚の子どもの頃からの漫画史にもなっているという、けっこう奥が…

動線

このところ、ちょっとした必要から水上勉をいろいろとつまんでいますが、『寺泊』『壺坂幻想』の2冊の単行本収録作品が収められた『水上勉全集』の第24巻(中央公論社、1978年)を、新古書店で税込み105円で手に入れました。端本だとこうなるのでしょうか。 …

いれものの中身

この間、つれあいと一緒に『ホタルノヒカリ2』のドラマを、観られる条件のある限りみていたのですが、今日が最終回でした。まだ、9月の水曜日は2回あるのですが、どうせなんだかごちゃごちゃした(もちろん、作る人は真剣につくっているのでしょうから、そう…

切れる

岩波文庫『雍州府志』上巻(宗政五十緒校注、2002年)です。 雍州というのは本来長安を含む地域の名称で、日本では京都を指します。著者の黒川道祐は、17世紀の人ですが、京都近郊を調べ、京都市内のみならず、山城国を含めた地誌を著したわけです。 ただ、…

仕掛け人

武井昭夫が亡くなったらしい。 新日本文学会から、気に入らない人たちを追い出すために、わざと、それまでもそれ以後も事前に活字にすることのなかった大会への報告を、あえて活字にして、批判する人をあぶりだそうとしたのは、けっこう策士の行動だったよう…

つながり

講談社文芸文庫の『現代アイヌ文学作品選』です。知里幸恵から萱野茂まで、何人かのアイヌ民族の書き手の、アイヌ語や、アイヌ語を日本語に翻訳したものや、日本語で書いたものなどの中から、注目すべきものを選んだものです。 その中に、知里幸恵の日記が少…

偲ぶ

『群像』10月号の書評の欄に、佐伯一麦さんが、三浦哲郎『おふくろの夜回り』(文藝春秋)について書いています。この文章を佐伯さんが書いていたときには、三浦さんはまだご健在だったのでしょうが、はからずも、追悼文のようなかっこうになってしまいまし…

たらいの模様

爆笑問題がいろいろな学者さんをたずねる番組がNHK総合であります。 今回は、子どもの認識の発達を研究している学者さんで、鏡に2秒遅れの映像をみせたときに、それを自分だと認識できるかという実権をやったりしています。ちなみに、3歳児で約3分の1程度の…

歳月

新潮社の『現代ソヴェト文学18人集』(1967年、全4巻)をひととおり読みました。 当時初訳のものばかり集めたので、ショーロホフとかソルジェニーツィンとかは入っていないのですが、それだけに、当時のソビエト文学のありようがみえてくるのかもしれません。…