結界

水上勉『私版京都図絵』(福武文庫、1986年、親本は1980年)です。
作者はご存知の方も多いでしょうが、若狭の村から禅寺に修行に出て、京都で少年期を送っています。そのかかわりのあった土地を、1970年代の後半に思い起こしながら書いた連続エッセイです。
梅小路の貨物駅の近くの六王孫神社の界隈から始まり、千本通ちかくの五番町、大徳寺の近くの今宮神社、というふうに、ゆかりのある土地が語られるのですが、ある意味、本当の京都の中心部にははいってきません。
たとえば、18世紀の画家、伊藤若冲が、錦小路にアトリエを構えたようにはいかないのです。それだけ、京都というまちのもつ、深みもあるのかもしれません。京大・同志社立命館と、いずれも、どちらかというと周縁の場所にあるようにも思えます。杉本秀太郎さんのような方でなければ、そうした中へ、はいれないということなのでしょうか。