あえて解かない

村上春樹さんの『騎士団長殺し』(新潮社、2冊)です。 ストーリーを紹介すると嫌がる方もいらっしゃるのでしょうが、最低限のことだけは。 中心的な話題の時は21世紀初頭、ゼロ年代後半です。主人公の画家が、妻との関係がうまくいかなくなったので、家を出…

追加

宇宙戦艦ヤマトの新しい映画ができるとかで、ケーブルテレビでアニメ版の一挙放送がおこなわれています。これは、21世紀になってからリメイクされたものなのですが、そこでは、地球を攻めるガミラス帝国は、それ以前にいくつかの星を支配下においているとい…

名目

どこかで、團伊玖磨の『パイプのけむり』シリーズ(朝日新聞出版)が復刊されるとかいう話題を目にした(ちがっていたらごめんなさい)のですが、ふっと思い出したのが、著者は『パイプのけむり』のどこかで、祖父の團琢磨がテロにたおれたことを痛憤をこめ…

残しておく

佐々木元勝(1904−1985)の『野戦郵便旗』(全2冊、現代史出版会、1973年)です。 この方は、1937年から1939年にかけて、野戦郵便局の設営と管理のために、上海から武漢まで日本軍の侵攻とともに行動された方で、その時の記録を、ガリ版刷りで残しておいた(…

イメージ

小山文雄『明治の異才 福地桜痴』(中公新書、1984年)です。 福地桜痴というと、どうしても鷗外の『雁』に出てくる、粋人の先生とか、小松左京の「紙か髪か」の導入部に登場する芸妓のために懐中時計のふたをつぶしてしまった話だとか、そんな印象が最初に…

よくぞ残った

三浦佑之さんの『風土記の世界』(岩波新書、2016年)です。 著者は、風土記は『日本書』の地理志的な意図をもって各国に作成させたという立場に立っているようです。本来、正史としての体裁を整えるべき『日本書』の本紀部分が現行の『日本書紀』にあたり、…

知的であること

阿川弘之『春の城』(新潮文庫、1970年改版、親本は1952年)です。 大学で国文学を学んだ広島出身の主人公が、卒業後海軍に配属され、暗号解読の任務に就きます。本人は戦争末期に中国に派遣されるので、無事復員できたのですが、父親やは被爆しますし、同期…

プライド

木下順二『巨匠』(福武書店、1991年)です。 ポーランドのドラマをきっかけにして書かれた戯曲です。1944年、ワルシャワ蜂起のあとで、ドイツは残党狩りをおこなっています。登場人物たちが避難している学校に、ゲシュタポが訪れ、〈知識人4人〉を銃殺する…

続かなかった

今年のセンター試験の小説は野上弥生子「秋の一日」でした。年譜によれば、1912年1月の『ホトトギス』に掲載されたものだそうです。 たぶん、作者の身辺に取材したものなのでしょうが、長男の素一さん(1910年1月生まれ)が、数え年2歳の秋のこととみれば、…

わくぐみ

木下彪『明治詩話』(岩波文庫、2015年、親本は1943年)です。 明治初期の漢詩隆盛の時代のありようを、当時の詩を多く紹介しながら述べたもので、いわゆる〈近代文学〉のわくからこぼれ落ちた時期の発掘ともいうべきものです。 その中で、文明開化にともな…

月にかわって

『児女英雄伝』(立間祥介訳、平凡社中国古典文学大系、1971年)です。 19世紀半ばごろの作品なのだそうですが、女性ながらに武芸の名手が、危機に陥った名家の息子を助け、その後その男性と結ばれると内助の功を尽くして、彼は科挙に合格して、一家が栄える…

度量

巴金『寒い夜』(岩波文庫、立間祥介訳、親本は1991年、原著は1947年)です。 1944年から45年にかけての重慶を舞台に、家族関係のはざまで肺を病んで死にゆく男を描いた作品です。当時は、日本軍が大陸打通作戦とかいって、桂林などを攻略した時期ですので、…

つぎつぎ

今度は、長山高之さんの訃報です。戦時中の高知を舞台にした作品もありました。しばらくは作品も書けなかったようですが、十分に書きたいことは書いたのではなかったでしょうか。

おくやみ

浜野博さんの訃報がしんぶんに載っていました。たしか江田五月と同じ高校で、運動会だかの行事のときの事故で下半身がうごかなくなってしまったとか聞いたことがあります。そうしたご自分の体験をベースにした小説をいくつか読んだ記憶があるのですが、最近…

識別

デレク・ジーター選手の功績をたたえて、ニューヨーク・ヤンキースは背番号2を永久欠番にしたそうです。ヤンキースの1けた番号はすべて永久欠番ということになるそうです。 さて、こちらでは、松本幸四郎さんが松本白鸚に、市川染五郎さんが松本幸四郎に、…

ふところの深さ

木村元彦さんの『橋を架ける者たち』(集英社新書)です。 もともとは『すばる』に不定期連載されていた朝鮮高校サッカーをめぐるエッセイを再構成したのだそうですが、在日の選手たちがどのようにして自分の場所をつくってきたのかということに関して、いろ…

虚構の力

有吉佐和子『和宮様御留』(講談社文庫、1981年、親本は1978年)です。 江戸に下った和宮が替え玉ではないかという話は昔からささやかれていたのでしょうが、それを、大きく広げたのがこの作品でしょう。和宮の伯父にあたる公家の家に奉公していた無筆の少女…

集めた時代

『世界文学全集 月報合本』(筑摩書房、1970年)です。 この合本も含めて全70冊になる世界文学全集で、1966年から70年にかけて刊行されました。筑摩は、同時期にやはり全70冊になる日本文学全集も刊行しています。 当時の『世界文学』ですから、中国やアラビ…

発想

山本紀夫さんの『トウガラシの世界史』(中公新書)です。 トウガラシが、南アメリカから地球を一周して広まっていったようすをたどる、時間と空間の広がったものです。各国でのトウガラシ事情がわかって、その幅広さに驚きます。 さて、ここでするのはそう…

あわや

『新潮』の12月号は、手塚治虫の未発表イラストを売りにしています。なぜ『芸術新潮』じゃないのかとは思いますが、そのおかげで、売れ行きもいいのでしょうか。いつも買う本屋では品切れで、2軒目でも最後の1冊でした。 手塚作品には、アポロの歌(だっけ)…

実のなかの虚

西野辰吉『東方の人』(東風社、1966年)です。 1960年代前半に『文化評論』に載せた連作長編で、大逆事件の被告とされた奥宮健之と、その周辺の人びとを描いています。日本の韓国併合にいたる朝鮮半島への進出の状況や、その中で生きるひとを描くという野心…

高揚

『文学・芸術の繁栄のために』(駿台社、1954年)です。 1953年に中国で開かれた、「中国文学・芸術工作者第2回代表大会」なるものの報告や発言で、活字になったものを日本で編集したものだそうです。 中華人民共和国ができて4年というところなので、みんな…

北のまちではもう

にしうら妙子さんの『淡雪の解ける頃』(民主文学館)です。 作者は、北海道に生まれ育った方で、十勝の大樹町に長く暮らしていたのだそうです。その時代に書いた作品を集めたもので、町の文芸誌にだしたものもはいっています。作者自身の体験にもとづくと思…

あおる

加藤陽子さんの『戦争まで』(朝日出版社)です。 中学生や高校生に対して、昭和戦前の日本がとった選択をふりかえるという企画です。当時の為政者の選択の中に、白色テロへの懸念があったことを位置づけていることは、見落とせないことでしょう。そうした、…

備忘のために

ずっとむかし、古田武彦の『失われた九州王朝』(朝日新聞社、1973年)を読みました。そのなかに、「『隋書』(『北史』もですが)のなかに、〈倭国は東西五月行、南北三月行〉という趣旨の記述があり、(古田は隋書は倭国ではなくタイ国だといっていますが…

今だから

村上春樹さんの『職業としての小説家』(スイッチ・パブリッシング、2015年)です。 著者の作品に向かう態度や作品をつくるときの構え、そこからはじまって、作家としての世間への向き合い方など、村上春樹はこうして作家として立って行ったのだと思わせます…

集めてみる

講談社文芸文庫『明治深刻悲惨小説集』です。 有名どころでは、樋口一葉の「にごりえ」とか、泉鏡花の「夜行巡査」とかもありますし、文庫などに初収録ではないかという田山花袋「断流」など、1890年代後半の格差や貧困、差別にまつわる作品を集めています。…

平準化

小林信彦さんの『ドジリーヌ姫の優雅な冒険』(文藝春秋、1978年)です。 雑誌『クロワッサン』に連載された小説で、若妻が夫とともに食をめぐるいろいろなトラブルにまきこまれながら危機を打開していくという娯楽小説です。食をめぐるうんちく的なところが…

ひとりあるき

桜井忠温『肉弾』(中公文庫、親本は1906年)です。 日露戦争の時、作者は旅順を攻めた第3軍に所属していたのですが、最初の総攻撃で負傷し後送されました。上陸以来の経験を書いたものがこの作品で、後送されるまでのことが書かれています。 火野葦平の「土…

取り合わせ

「とと姉ちゃん」の花山氏のデスクの後ろに本が何冊か並んでいて、パッと見で背表紙だけをみると、「蟹工船」と「浮かぶ飛行島」とが読み取れました。 海の話が好きなのでしょうか。内容的には両極端のような気もするのですが。