知的であること

阿川弘之『春の城』(新潮文庫、1970年改版、親本は1952年)です。
大学で国文学を学んだ広島出身の主人公が、卒業後海軍に配属され、暗号解読の任務に就きます。本人は戦争末期に中国に派遣されるので、無事復員できたのですが、父親やは被爆しますし、同期生たちは多くが戦死してしまいます。そうした生活のすがたを描いています。
作者の体験も多く入っているのでしょうが、大学出であるがために、わりあい軍の中でもすぐに将校になれるという立場もあるのか、また、暗号解読という任務から敵の動きもみえることからか、戦争のゆくすえを主人公たちはけっこうはっきりと予測していきます。その見通しが現実の流れの前では無力であったことが、こうした作品を書くことで、戦争へとすすんでいった時代への批評となっているのでしょう。そこは、きちんと読み取るべきなのでしょうね。