わくぐみ

木下彪『明治詩話』(岩波文庫、2015年、親本は1943年)です。
明治初期の漢詩隆盛の時代のありようを、当時の詩を多く紹介しながら述べたもので、いわゆる〈近代文学〉のわくからこぼれ落ちた時期の発掘ともいうべきものです。
その中で、文明開化にともなってさまざまな事物がはいってきたことに対して、当時の人びとが関心を示し、それを漢詩の形で表現してきたことが述べられています。その時によく使われたのが、頼山陽の『天草洋に泊す』の詩で、これに次韻するばかりでなく、語彙も借用しながら新事物を述べるものが多かったようなのです。
そもそも、漢詩というわくぐみ自身が既成のものですし、そこに当時人口に膾炙していた山陽の詩をつかうことで、ますます型にはまっているという効果ももたらすものでしょう。それはたしかに〈近代文学〉にはなりませんね。成島柳北の『辟易の賦』にも、同様のことはいえるのではないかとも思うのです。著者はそうした形の文明批評には距離をおいているようですが。