プライド

木下順二『巨匠』(福武書店、1991年)です。
ポーランドのドラマをきっかけにして書かれた戯曲です。1944年、ワルシャワ蜂起のあとで、ドイツは残党狩りをおこなっています。登場人物たちが避難している学校に、ゲシュタポが訪れ、〈知識人4人〉を銃殺すると告げます。そのとき、リストから漏れた一人の老人が、「自分はいまでこそ役場の簿記係だが、実は俳優なのだ」と主張します。そして、『マクベス』のせりふを暗唱します。その結果、老人は銃殺される側にまわるのです。
ある流れができているときに、そこにどのような態度をとるのかが問われるということでしょうか。かれは、「簿記係」という現職にこだわることも可能だったわけです。しかし、その道を選ばない。自分ならどうするか、そこを作者は問いかけるのでしょう。