だれでもできる

『土門拳 写真論集』(ちくま学芸文庫、オリジナル編集)です。 中心は1950年代の投稿写真の選評と、そのころの講演記録などですが、当時のアマチュアカメラマンが、社会的な題材にリアリズムの境地から迫ろうとすることへの応援となっています。 とうじでさ…

話を聞く

大江健三郎さんの『世界の若者たち』(新潮社、1962年)です。 中国やブルガリア訪問記もあるのですが、内容の多くは1961年に『毎日グラフ』に連載された、訪問インタビューの記録です。著者と同世代のような各分野の人びとをたずねていて、大関大鵬(当時)…

背景

津島佑子『夢の歌から』(インスクリプト)です。 著者が生前に刊行を予定していたもので、校正刷りができる直前に亡くなられたようです。 晩年の作品と同じような立場から書かれたいろいろなエッセイが収められているので、この何年かの著者の活動とあわせ…

年齢

今日は福永武彦の亡くなった日にあたるということですが、かれは61歳で亡くなっているのですね。実は若死にだったということにもなるのでしょうか。当時は大往生のような感じもしていたのですが。 同じように、篠田一士も62歳で亡くなったと記憶しています。…

手がかり

泉脩さんの『妻が逝く』(私家版)です。 泉さんは札幌第一高校の教諭を長年勤め、定年後に文学サークルに属しながら、評論やエッセイをかかれていらっしゃいます。 最近の短い文章をまとめた本なのですが、その中に、近しい人の追悼文が載っています。その…

独自性

オリンピックの開会式では、入場行進の順番は、開催国のことばの秩序にしたがった順番をとることになっているようです。 そうなると、日本語ならばアイスランドからロシアまでということになるのでしょうが、長野のときにもそういうことはしなかった従属国的…

秩序ができれば

青木文庫『明治労働問題論集』(1956年)です。 20世紀最初の10年間ほどの、労働者の現状報告と、各地で起きた労働争議の実態とを、当時の新聞や雑誌の記事を集成して編んだものです。 100年経っても日本の企業のブラックぶりはこの当時とあまり変わらないの…

今度は消えない

7月30日になっても、起動すると「アップグレードまでまもなくです」と出て、60分のカウントダウンがはじまっています。どんなものでしょうか。

それをいうなら

竹内栄美子さんの『中野重治と戦後文化運動』(論創社、2015年)です。 近代文学研究の立場からの研究論文を集めた本というのは、最近ではやはり珍しいもので、プロレタリア文学運動や、戦後の文化運動のありようを、批判的な目をもちながら、大局的には擁護…

無限ループ

PCを起動すると、あと60分後にアップデートを開始しますというメッセージが出て、カウントダウンが始まるのですが、60分経つと単なる再起動がおこなわれて、また60分後にアップデートを開始しますというメッセージが出て、カウントダウンが始まります。 どう…

世界が狭い

芥川賞は村田沙耶香さん。 いつとってもおかしくはないとは思っていましたが、前回の本谷さんに引き続いて、野間新人・三島との3冠達成ということになります。ちょっと前までは、笙野頼子さんだけだったのが、鹿島田真希さん、本谷有希子さんと、今回の村田…

悪役

『水滸後伝』(平凡社東洋文庫、鳥居久靖訳、全3冊、1966年)です。 17世紀前半に書かれたもので、水滸伝の108人のなかで生き残った面々が、いろいろなめぐりあわせのすえ、海外に新天地を求めるという物語です。そのプロセスは、よく練られていますし、場合…

数え方

天皇さんが退位を考えているとの報道がされています。形式的には、皇室典範の規定を変えていくということは可能でしょうから、議論はできるということでしょうか。 ただ、報道の中で、「124代のなかで半数近くは譲位された」という趣旨のことばが出てきてい…

列藩同盟

選挙で野党統一候補が議席を獲得したのが、岩手・宮城・福島の被災3県に、山形・新潟と続くと、奥羽越列藩同盟の世界を思い出してしまいます。長州に対する抵抗がやはり必要なのではないでしょうか。

いいたいことを

楜沢健さんの『だから、鶴彬』(春陽堂書店、2011年)です。 鶴彬の川柳が描きだした世界を、彼の生涯と重ね合わせて記述しています。川柳というジャンルが、もともと社会への諷刺をおこなうのに適したものですから、そこに変革への志をこめた〈叛逆〉のもの…

憂国

白井聡さんの『「戦後」の墓碑銘』(金曜日、2015年)と、島田雅彦さんの『優しいサヨクの復活』(PHP新書、2015年)です。 いずれも昨年、安保法制が成立した直後に刊行されたものですが、そうした国になってしまった日本の現状と、それを認めている人びと…

謎は解けたか

松本清張『砂の器』(光文社、1961年)です。 昔読んでストーリーは知っているので、時代を感じさせる部分がどのくらいあるのかと思っていたのですが、1960年前後という、戦争の混乱から脱却しようとする時期のものという感じはありました。細かく読んでいく…

悪いことばかりじゃなかった

ヴェルメシュ『帰ってきたヒトラー』(全2冊、森内薫訳、河出文庫、原本は2012年、親本は2014年)です。 ヒトラーが2011年8月のベルリンによみがえり、みずからの弁舌を生かして〈お笑い芸人〉として生きていきながら、徐々に人気をあげてゆくという話です。…

陥る

三井秀樹さんの『琳派のデザイン学』(NHKブックス、2013年)です。 江戸時代からながれる琳派の表現の、日本的な特性を分析し、それがジャポニスムのかたちで西洋の美術工芸にどのようなインパクトを与えたのかを考えています。19世紀にジャポニスムが与え…

開いていること

黒川創さんの『鷗外と漱石のあいだで』(河出書房新社、2015年)です。 20世紀初頭の文学状況を、日本だけでなく東アジアにおいて文学がどう受け取られたかを視野に入れて論じたものです。その中で鷗外と漱石の果たした役割を考えるというところに、中心はあ…

配材

高橋夏男さんの『流星群の詩人たち』(林道舎、1999年)です。 草野心平とともに詩をつくっていた人たちの生涯を追ったもので、坂本遼、原理充雄、木山捷平たちのことが調べられています。1920年代という、激動の時代に詩だけでなく、大阪に郵政労働者だった…

構想

宮崎市定『水滸伝』(中公新書、1972年)です。水滸伝にみられるいろいろな人物やそれをめぐるできごとを、史家の観点から記したもので、作中のエピソードがもとづいているだろう史実を掘り起こしているところや、宋江という人物が同時代に二人いて、一人は…

年を経る

古市憲寿さんの『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社+α文庫、2015年、親本は2011年)です。 文庫化に当たって追記や脚注の付加が行われて、おのずと自説の再検討のおもむきもあります。 たしか単行本がでたときに、浅尾大輔さんが書いた書評に対して、河添…

記憶の質

渡辺武さんの『戦国のゲルニカ』(新日本出版社、2015年)です。 大阪城博物館にある、黒田家伝来の「大坂夏の陣図屏風」に描かれた戦の実相を追求したものです。戦争が武士のみならず、民間人にも実質的な被害をもたらしているようすが、屏風には描かれてい…

大義名分

内藤湖南『中国近世史』(岩波文庫、2015年、親本は1947年)です。 もともとは著者が1920年代に京都大学で講じたものを没後に活字化したものなのですが、10世紀から14世紀前半のころの中国を、近世社会のおこりとして論じるものになっています。この時期の中…

わずかの差

『岩波講座 日本歴史』をときどき拾い読みしているのですが、近世の巻のなかで、江戸末期にうまれた宗教についての論考がありました。当時は、「誰それが神がかりになった」という体の話は、あちこちにあったのだそうですが、その中の多くは、〈はやり神〉と…

わたしはかもめ

『図書』6月号に、沼野充義さんがテレシコワ飛行士についてエッセイを書いています。彼女が地球を周回したときの、当時は隠されていたエピソードとか、地上に帰着した時にやってしまった失敗とか、なるほどと思わせるものがいろいろとあって、それはそれで草…

普通の親

大塚英志さんの『二階の住人とその時代』(星海社新書)です。 1980年代はじめ、徳間書店の2階の編集部に出入りしていた人たちが、どのようにして新しい文化を作りだそうとしていたのかを回想した記録です。もとはジブリの雑誌、『熱風』に連載したものをま…

めぐりあわせ

大岡昇平『わが美的洗脳』(講談社文芸文庫、2009年)です。 著者の音楽・美術・演劇・映画についてのエッセイを集めたものです。こうしてみると、この人はもともと中原中也や小林秀雄との関係が深かったのだということが、あらためてわかるような気がします…

バランス

原武史さんの『直訴と王権』(朝日新聞社、1996年)です。 18世紀からの朝鮮王朝を軸にして、当時の王権と民衆とのかかわりをさぐっています。王の力の強かった時期と、両班層の力の強かった時期との入れ替わりが、朝鮮王朝の歴史を左右したのだということに…