度量

巴金『寒い夜』(岩波文庫、立間祥介訳、親本は1991年、原著は1947年)です。
1944年から45年にかけての重慶を舞台に、家族関係のはざまで肺を病んで死にゆく男を描いた作品です。当時は、日本軍が大陸打通作戦とかいって、桂林などを攻略した時期ですので、そういう日本軍の侵攻への不安が街を覆っていて、主人公たちの生活も脅かしています。そのなかで、妻と母との板挟みになる主人公の苦悩が描かれるわけですが、普遍的な材料かもしれませんが、時代の不安と結びついたところに、意義があるのでしょう。
作者は、文革時代にいろいろと批判も浴びたようですが、21世紀初頭まで長寿を保ちました。中国語作家として、ノーベル賞の声もあがったようですが、結局は受賞はしませんでした。適度に政権とも距離をおいていたような感じもあります。そこが郭沫若とはちがっているのでしょう。そうした生き方が、これからの中国でも可能なのかどうか、それは考えたいところです。