虚構の力

有吉佐和子和宮様御留』(講談社文庫、1981年、親本は1978年)です。
江戸に下った和宮が替え玉ではないかという話は昔からささやかれていたのでしょうが、それを、大きく広げたのがこの作品でしょう。和宮の伯父にあたる公家の家に奉公していた無筆の少女が、和宮の替え玉に仕立てられて中山道を下っていくプロセスなどは、よく仕組まれたトリックを見せられるように思われますし、さらにもうひとつのどんでん返しがそこで図らずも企まれるという設定は、ある種の推理小説的なところもあります。政治のなかで翻弄される女性の動きに対して、こうして反撃というか、一泡ふかせるというところにも、歴史の読み替えの意味はあるのでしょう。たまには、こうした歴史ものもいいのかもしれません。