ひとりあるき

桜井忠温『肉弾』(中公文庫、親本は1906年)です。
日露戦争の時、作者は旅順を攻めた第3軍に所属していたのですが、最初の総攻撃で負傷し後送されました。上陸以来の経験を書いたものがこの作品で、後送されるまでのことが書かれています。
火野葦平の「土と兵隊」ほどではありませんが、現場にいた人ならではの緊迫感は、そこそこ感じられるものです。ただ、日露戦争後の勝利のイメージの中で、「肉弾」という言葉だけがクローズアップされたり、作者が英雄扱いされたりしたのは、過褒だったのではないかとも思います。日露戦争の勝利幻想は、昨年の首相の談話まで続いているので、そこは冷静に判断しなくてはなりません。