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青木文庫の社会思想シリーズ『森近運平・堺利彦集』(1955年)です。
二人の〈共著〉として刊行された(主執筆者は森近だそうです)『社会主義綱要』(1907年)を中心に、ほかの論考を収録しています。森近の社会主義理論への理解度はすぐれていて、ことばづかいを少しなおせば、100年後の今でも、社会主義理論についての概説書として使えそうな感じがします。
当時は普通選挙もなく、弾圧法規も強かったので社会主義を理念とする政党の存在も許されない中、こうした形の啓蒙運動は大切だったのでしょう。森近が、故郷に引っ込んで農業にいそしんでいたのに〈大逆事件〉の被告にされ、刑死したのもこうした理論的な水準の高さが、当時の権力にとっては邪魔だったということなのでしょう。それだけ、権力の側は、気にしていたのですね。