想像力

日本古典文学大系岩波書店)の『狭衣物語』(三谷栄一、関根慶子校注、1965年)を、少しずつ進めています。なんとか物語の全体のわくぐみが見えてくるあたりまで来たような感じがしています。
主人公は、高貴な生まれです。祖父は帝、父は皇位につかなかったのですが、その兄弟ふたりはいずれも帝になるというのですから、ちょうど後堀河天皇と同じようなたち位置にあるということでしょうか(系譜上の類似ですよ。他意はありません)。けれども、そうした身分の人間にしては、けっこう無茶な行動をとります。従姉妹に懸想するけれども、禁忌をおかす勇気はない。一方で、今の帝から薦められた皇女との縁談もぐずぐずしているうちに、それと明かさずにその皇女と関係をもち、一夜で懐胎させてしまう。また、別の女性のもとに通い、こちらも妊娠する。
こうした人物が、光源氏にもたとえられるほどとされていたり、音楽を演奏すると天人が降臨してかれを天上へといざなおうとするというのですから、まあ、よくも考えたものだとも思います。
加藤周一さんの『日本文学史序説』で、こうした〈源氏亜流物語〉の描写がグロテスクになっていく方向性をみごとに分析した一段がありましたが、原典にあたると、あらためてこうした作品を生み出す状況について、考えなければという感じですね。