愛情

ナボコフ『賜物』(沼野充義訳、河出版世界文学全集、原著は1937年から38年にかけて雑誌掲載、単行本は1952年)です。
大江健三郎さんの『さようなら、私の本よ』(講談社)で、タイトルの由来になった作品なのですが、ロシア語から直接訳されたのは、今回がはじめてだということです。
ナボコフロシア革命で国外に逃れ、最後までロシアに帰らなかった作家なのですが、この作品は、国外に住む(ベルリンです)ロシア青年の姿をとおして、ロシア文学とロシア語に対する作者の思いが強く出ています。
それは当然、その当時のロシアを支配していた勢力への強い嫌悪となってあらわれます。作品の時代はレーニンが死んだ直後なのですが、執筆当時のスターリン体制への批判が、作品から匂ってきます。それも、時代のうんだものなのでしょう。
訳した沼野さんは、ブルガーコフとならべて当時のロシア語作品のすぐれたものとしていますが、そこに『静かなドン』も加えて、3作品をそろえてみることも大切だと思います。