すげかえ

山田美妙『あぎなるど』(中公文庫、1990年、初刊は1902年、親本は1942年)です。
山田美妙は、1880年代末、尾崎紅葉とともに硯友社の創立当時のメンバーとして新しい文学のために活躍、言文一致体、とくに〈です・ます〉調の文体を創出しました。『坂の上の雲』にも、大学予備門の入試で英語で答案を書く才子として登場しています。その後、紅葉とはたもとを分かち、文壇の主流から離れていくのですが、その途上に書かれたのが、この作品なのです。
当時のフィリピンの独立運動の指導者アギナルドの生涯を追ったものですが、スペインからアメリカに支配者が変わっただけというフィリピンの状況を通して、アメリカへの批判が強く出ています。1942年に再刊(文庫本の〈解題〉も、そのときつけられた塩田良平によるものがそのまま収録され、1990年段階の文章はありません)されたのも、むべなるかなというところでしょうか。
もちろん、当時日本は、日清戦争の結果台湾を領有したわけですから、台湾島の住民にしてみれば、支配者が清国から日本に変わっただけともいえるので、フィリピンとそんなに変わりはないのかもしれません。山田美妙には、そういう視点はありません。かれの主観的な意図はともかく、結局は際物になっているのも、そういうところがあるでしょう。