視線

佐多稲子『子供の眼』(角川小説新書、1955年)です。
この時代は新書版の小説が流行していて、角川だけでなく、岩波新書にも小説が収録されたり、河出書房も新書を出したりしていて、徳永直の『静かなる山々』も角川から出ています。
内容は、「子供の眼」と「吹きさらす顔」の2編が収録されています。そんなに長くない作品なのですが、表題作は母親をなくし、父親が再婚してあたらしい母親がやってきた小学生の男の子を主人公にして、この家庭の姿を描いています。小学生の視点からのさくひんですから、生々しい場面などはなく、よくこなれた家庭小説というところです。
佐多稲子の作品には、のちに映画化やドラマ化される作品も多いのですが、そうした方向へ向かっているものとしては、これは早いほうかもしれません。