網の目

田中伸尚さんの『大逆事件』(岩波書店)です。
事件だけでなく、被告とされた人の家族のその後なども追っていて、〈事件〉から100年という時の流れの中で、変わらずに残っているいろいろな〈しばり〉についても考察しています。
特に、戦後行われた再審請求が却下されるいきさつのなかで、戦前から裁判官が継続したシステムのもとにあることが、再審請求の結果にも関係したのではないかという提起は、重大です。地域社会やみずからの属する宗門からの白眼視ということだけでも、社会の圧力を感じることはできるのですが、それが司法の場まできているとなると、仕組みの強固さもかんがえなくてはいけません。
今のマスコミが、現政権をたたくありかたとも、関係するとも思ってしまいます。

その中で、沖野岩三郎が、この事件をモチーフにした作品を『大阪朝日新聞』の懸賞小説に応募します。選者は内田魯庵幸田露伴島崎藤村の3人。入選したのですが、いろいろあって、新聞紙上に掲載されたのはしばらく経ってからでした。こうした作品を選んだ選者も、きちんとしたものだといえます。そこに、文学者の矜持もあったのでしょう。