2016-01-01から1年間の記事一覧

悪役

『水滸後伝』(平凡社東洋文庫、鳥居久靖訳、全3冊、1966年)です。 17世紀前半に書かれたもので、水滸伝の108人のなかで生き残った面々が、いろいろなめぐりあわせのすえ、海外に新天地を求めるという物語です。そのプロセスは、よく練られていますし、場合…

数え方

天皇さんが退位を考えているとの報道がされています。形式的には、皇室典範の規定を変えていくということは可能でしょうから、議論はできるということでしょうか。 ただ、報道の中で、「124代のなかで半数近くは譲位された」という趣旨のことばが出てきてい…

列藩同盟

選挙で野党統一候補が議席を獲得したのが、岩手・宮城・福島の被災3県に、山形・新潟と続くと、奥羽越列藩同盟の世界を思い出してしまいます。長州に対する抵抗がやはり必要なのではないでしょうか。

いいたいことを

楜沢健さんの『だから、鶴彬』(春陽堂書店、2011年)です。 鶴彬の川柳が描きだした世界を、彼の生涯と重ね合わせて記述しています。川柳というジャンルが、もともと社会への諷刺をおこなうのに適したものですから、そこに変革への志をこめた〈叛逆〉のもの…

憂国

白井聡さんの『「戦後」の墓碑銘』(金曜日、2015年)と、島田雅彦さんの『優しいサヨクの復活』(PHP新書、2015年)です。 いずれも昨年、安保法制が成立した直後に刊行されたものですが、そうした国になってしまった日本の現状と、それを認めている人びと…

謎は解けたか

松本清張『砂の器』(光文社、1961年)です。 昔読んでストーリーは知っているので、時代を感じさせる部分がどのくらいあるのかと思っていたのですが、1960年前後という、戦争の混乱から脱却しようとする時期のものという感じはありました。細かく読んでいく…

悪いことばかりじゃなかった

ヴェルメシュ『帰ってきたヒトラー』(全2冊、森内薫訳、河出文庫、原本は2012年、親本は2014年)です。 ヒトラーが2011年8月のベルリンによみがえり、みずからの弁舌を生かして〈お笑い芸人〉として生きていきながら、徐々に人気をあげてゆくという話です。…

陥る

三井秀樹さんの『琳派のデザイン学』(NHKブックス、2013年)です。 江戸時代からながれる琳派の表現の、日本的な特性を分析し、それがジャポニスムのかたちで西洋の美術工芸にどのようなインパクトを与えたのかを考えています。19世紀にジャポニスムが与え…

開いていること

黒川創さんの『鷗外と漱石のあいだで』(河出書房新社、2015年)です。 20世紀初頭の文学状況を、日本だけでなく東アジアにおいて文学がどう受け取られたかを視野に入れて論じたものです。その中で鷗外と漱石の果たした役割を考えるというところに、中心はあ…

配材

高橋夏男さんの『流星群の詩人たち』(林道舎、1999年)です。 草野心平とともに詩をつくっていた人たちの生涯を追ったもので、坂本遼、原理充雄、木山捷平たちのことが調べられています。1920年代という、激動の時代に詩だけでなく、大阪に郵政労働者だった…

構想

宮崎市定『水滸伝』(中公新書、1972年)です。水滸伝にみられるいろいろな人物やそれをめぐるできごとを、史家の観点から記したもので、作中のエピソードがもとづいているだろう史実を掘り起こしているところや、宋江という人物が同時代に二人いて、一人は…

年を経る

古市憲寿さんの『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社+α文庫、2015年、親本は2011年)です。 文庫化に当たって追記や脚注の付加が行われて、おのずと自説の再検討のおもむきもあります。 たしか単行本がでたときに、浅尾大輔さんが書いた書評に対して、河添…

記憶の質

渡辺武さんの『戦国のゲルニカ』(新日本出版社、2015年)です。 大阪城博物館にある、黒田家伝来の「大坂夏の陣図屏風」に描かれた戦の実相を追求したものです。戦争が武士のみならず、民間人にも実質的な被害をもたらしているようすが、屏風には描かれてい…

大義名分

内藤湖南『中国近世史』(岩波文庫、2015年、親本は1947年)です。 もともとは著者が1920年代に京都大学で講じたものを没後に活字化したものなのですが、10世紀から14世紀前半のころの中国を、近世社会のおこりとして論じるものになっています。この時期の中…

わずかの差

『岩波講座 日本歴史』をときどき拾い読みしているのですが、近世の巻のなかで、江戸末期にうまれた宗教についての論考がありました。当時は、「誰それが神がかりになった」という体の話は、あちこちにあったのだそうですが、その中の多くは、〈はやり神〉と…

わたしはかもめ

『図書』6月号に、沼野充義さんがテレシコワ飛行士についてエッセイを書いています。彼女が地球を周回したときの、当時は隠されていたエピソードとか、地上に帰着した時にやってしまった失敗とか、なるほどと思わせるものがいろいろとあって、それはそれで草…

普通の親

大塚英志さんの『二階の住人とその時代』(星海社新書)です。 1980年代はじめ、徳間書店の2階の編集部に出入りしていた人たちが、どのようにして新しい文化を作りだそうとしていたのかを回想した記録です。もとはジブリの雑誌、『熱風』に連載したものをま…

めぐりあわせ

大岡昇平『わが美的洗脳』(講談社文芸文庫、2009年)です。 著者の音楽・美術・演劇・映画についてのエッセイを集めたものです。こうしてみると、この人はもともと中原中也や小林秀雄との関係が深かったのだということが、あらためてわかるような気がします…

バランス

原武史さんの『直訴と王権』(朝日新聞社、1996年)です。 18世紀からの朝鮮王朝を軸にして、当時の王権と民衆とのかかわりをさぐっています。王の力の強かった時期と、両班層の力の強かった時期との入れ替わりが、朝鮮王朝の歴史を左右したのだということに…

ピンポイント

小林信彦さんの『悪魔の下回り』(新潮文庫、1984年、親本は1981年)です。 死を決意した中年男が、悪魔と契約して変身能力を身につけ、若い歌手や編集者、作家をめざすなかで、その業界の暗部に接するという作品です。 面白く読めばそれでいいという作品で…

封印

『そこに僕らは居合わせた』(パウゼヴァング著、高田ゆみ子訳、みすず書房、2012年、原著は2004年)です。 1933年から45年の間のドイツがどんな社会であったのかを、当時少年少女たちだったひとを登場させて描いた作品集です。21世紀になって、学校で当時の…

一辺倒ではなく

『現代ドイツ短編集』(三修社、1980年)です。 DDRの作家たちのアンソロジーという、今となっては珍しいものです。もちろん、アンナ・ゼーガースやクリスタ・ヴォルフのような、よく知られたひともはいっているのですが、それ以外の人の作品にも、なかなか…

旧態依然

岩瀬昇さんの『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』(文春新書)です。 満洲というよりも、戦前の陸海軍が石油に関してどういう方針をもっていた(というよりも無策だった)ことを書こうとしたものです。あまり文章がこなれていないという印象は…

いやなことを思い出す

このところの九州の地震の動きをみていると、小松左京の『日本沈没』(光文社、1973年)のなかで、列島沈没の最後のひきがねとなったのが、中央構造線沿いに地震が連続して起きていったことだったことなど、連想してしまいました。あの作品の時には、まだ原…

限界の自覚

今日は斎藤緑雨の命日だそうです。1990年代に緑雨の全集が筑摩書房から出たときに思ったのですが、かれの小説は、当時の社会が、女性の自立を求めていなかったというところからくる女性の苦しさを、主観的には描こうとしていたように見えます。女性が職業を…

つぶしたのはだれ

魚柄仁之助さんの『食べ方上手だった日本人』(岩波現代文庫、2015年、親本は2008年)です。 1930年代の料理に関する文献をさぐり、当時の食生活のなかの知恵や工夫を考えるものです。当時の食品保存法や、都会におけるガスの普及が料理のあり方を変えていっ…

娯楽なのに

馬場マコトさんの『従軍歌謡慰問団』(白水社、2012年)です。アジア太平洋戦争のときの、大衆音楽家たちの行動を、デビューにさかのぼって昭和初期から物語風に描いたものです。戦争へと傾斜する時代に、流行歌に託したひとびとの思いが、いざ戦争となった…

猫も杓子も

ちょっと怒られそうなタイトルですが、『図書』4月号に、金文京さんが「福沢諭吉の漢詩」という文章を書いています。自分の父親の亡くなった年齢を超えたあたりから、福沢は漢詩をたくさんつくっているというのです。明治のひとびとにとっては、漢学の素養と…

練習

笠原十九司さんの『海軍の日中戦争』(平凡社、2015年)です。 日中戦争のときに、海軍の航空隊は重慶をはじめ、中国の各所を空爆し、迎撃した中国軍機と空中戦もおこないました。零式戦闘機も、中国を最初の活動場所にしていたのです。著者は、戦争の過程を…

戦いはこれから

結局、『三侠五義』最後まで読みました。最後は、ラスボスとでもいうべき襄陽王との戦いに英雄たちが集結して最後のたたかいに臨む、というそれこそ少年ジャンプの打ち切り作品的な終わり方をしています。つまり、どこで作品が終わっても、それなりに完結感…