2012-01-01から1年間の記事一覧

似姿

黒田日出男さんの『源頼朝の真像』(角川選書、2011年)です。 夏に奈良博で頼朝の特別展があったのですが、そこにも出展された甲斐の善光寺の頼朝像が、没後まもなく政子によって作成されたものだという論証をしたものです。 奈良博には神護寺の伝頼朝の画…

同世代

『図書』の11月号が届いたので、いろいろと眺めていると、大江健三郎さんのエッセイで、同級だった海老坂武さんのことが書かれていました。かれは野球部にいたのだそうですが、(大江さんがリーディングヒッターといっているのはもちろん誤りで、当時は東大…

ワイルドカード

岩倉使節団、サンクトペテルスブルグを見学して、北欧に向かいます。(文庫本4巻中途) ロシアをみて、かれらは、ロシアは当時のヨーロッパの中では遅れた国であることを実感します。にもかかわらず、幕末から日本のなかに、ロシア脅威論が流行するのは、19…

日本天皇・太子…

小路田泰直さんの『神々の革命』(かもがわ出版)です。 著者は近代史がどちらかといえば専門なのでしょうが、古代史へのアプローチとしての本です。 記紀の記述を、歴史としてよむことで、崇神天皇の時代を、倭国が農業社会に転換する時期の大変革として位…

どこに目をつける

今日は志賀直哉の命日だそうです。 「城の崎にて」や「清兵衛と瓢箪」が有名になっているので、志賀直哉というと、けっこう少年期の読書素材としてうけとめられているような感(実際、こちらもここ30年くらい小説作品は本格的に読み直していません)もありま…

傷つける

※ネタバレあります。 西川美和監督の映画『夢売るふたり』なのですが、どうにもよくわからないのが、子どもの扱いです。 阿部サダヲ演ずる主人公が、ふとしたきっかけから製本工場の出戻りシングルマザーと親しくなります。彼は以前から、火事で焼けた店の再…

ごちゃまぜ

原彬久さんの『岸信介』(岩波新書、1995年)です。 岸が若いころに北一輝にひかれていたことだとか、『満洲国』時代に〈濾過器〉を経たと思われるあやしいおかねを存分に使える立場にいたことなど、なるほどと思わせるエピソードもけっこうあるのですが、戦…

のんきな時代

角川の日本近代文学大系の『近代評論集2』(1972年)は、大正時代のものを集めているのですが、そのなかで、生田長江が白樺派を批判したものがあります。生田は、〈自然主義前派〉だと、かれらを批判するのです。 それはそれでかまわないのですが、その中で…

あいも変わらず

板橋守邦さんの『南氷洋捕鯨史』(中公新書、1987年)です。 世界の近代捕鯨の歴史を中公新書らしく、手堅くまとめています。 船団式捕鯨は、日本でも戦前は鯨油とりばかりで、食肉としてもとるようになったのは、戦後になってからだという指摘は、きちんと…

比較

ちまちまと、岩倉使節団につきあって、やっとフランスからベルギーに移動したあたり(文庫本3巻の途中)です。 アメリカ・イギリスにくらべると、フランスはプロイセンとの戦争に敗れ、パリ・コミューンの傷跡が残り、という時期にあたっています。政権交代…

まさかほんとうに

今年のノーベル賞は中国の莫言だそうです。 もちろん、いつ受賞してもおかしくない人ですから、いろいろとあっても妥当な受賞だと思います。 昔読んで、タイトルもよく覚えていないのですが、中越戦争の帰還兵が、国のために戦った自分に対して国がなにもし…

次に読む

原武史さん、保阪正康さんの『対論 昭和天皇』(文春新書、2004年)です。 昭和天皇をめぐる、さまざまな視点からの論点で、声の問題や、どこに行幸してきたかのこと、三種の神器のことなど、幅広く扱っています。 けれども、ある程度の予備知識がないと、納…

一芸

益川敏英さんの『素粒子はおもしろい』(岩波ジュニア新書、2011年)です。 物理は、それこそ大学受験に使って(とはいっても、共通一次を通過するだけでしたが)以来ごぶさたしているわけですが、ノーベル賞を受賞した方の一般向けの著作は、専門的なことに…

平野の風景

原武史さんの『レッドアローとスターハウス』(新潮社)です。 原さんは、自分の育った団地の生活を、戦後の思想史のなかに位置づけようとしています。以前の『滝山コミューン1974』のときもそうでしたが、みずからの生い立ちについて、懐かしさとともに違和…

恥しらず

『図書』10月号に、赤川次郎さんのエッセイが載っているのですが、それによると、文楽を見た大阪市長は、出遣いの演技を「人形をつかう人間の顔が邪魔」といったのだそうです。 これが、国政に参加しようとする政党の党首の発言だとしたら、国辱ものです。自…

愛着

宮崎市定『中国史の名君と宰相』(中公文庫オリジナル編集、2011年)です。 全集にもれた事典の記述を中心に、いろいろな論文を集めています。 礪波護さんが解説を書いているのですが、その中で、ある学会のとき、ある研究者が太平天国論をもとに、中国史の…

縛り

杉浦明平『戦国乱世の文学』(岩波新書、1965年)です。 いわゆる中世から近世初期の作品をとりあげ、古い価値観や美意識に支配されている作品だと論証することが主になっています。 もちろん、当時の文学作品が平安時代の価値観を是とする意識に貫かれてい…

孫たち

神崎清『実録 幸徳秋水』(読売新聞社、1971年)です。 著者の長年の研究をもとにした評伝といってよいでしょう。秋水の伝記として、よみごたえがあります。〈事件〉がどのように作られていったのかということも、ていねいに論じていて、帝国憲法のもとでも…

あわせもつ

昨日書くべきだったでしょうが、きのうは河上徹太郎の33回忌にあたる日だったそうです。 河上といえば、日中戦争のときに石川淳の「マルスの歌」を『文学界』に載せて、発禁処分を受けて、発行側として罰金を受けたことがある人です。戦後最初には〈配給され…

そもそも

金賛汀さんの『関釜連絡船』(朝日選書、1988年)です。 植民地支配時代の朝鮮半島について、基本的なことをおさえないわけにはいきません。インフラの整備は誰のために行われたのか(たとえば、連絡船が運航される前の釜山港は、はしけで陸とやりとりをして…

たまには

島村利正『奈良登大路町・妙高の秋』(講談社文芸文庫、2004年、文庫版新編集)です。 瀧井孝作を介して志賀直哉に学んだ著者の、好短篇を集めたものです。著者の故郷の、信州高遠を舞台にした「仙酔島」は、高遠に鰹節を売りにくる男が頓死して、葬儀をだし…

手仕事

『米欧回覧実記』の2冊目(岩波文庫、1978年)です。 使節団のイギリス滞在の部分なのですが、当時の産業革命をリードした大英帝国のことですから、使節団は各地の工場を見学します。製鉄所、ガラス工場、陶磁器の製作所、さらにはビスケット工場と、さまざ…

踏み絵

金石範さんの『過去からの行進』(全2冊、岩波書店)です。 1991年を舞台に、かつて1984年に〈南山〉(KCIA)によってとらえられ「作家〈金一潭〉によって自分は反韓国の活動家になった」というデッチアゲの〈反省文〉を書かされた男が、その作家に〈韓国入…

本流

『戦後史のなかの国鉄労使』(升田嘉夫、明石書店、2011年)です。 著者は当局側のひとなのですが、そういう点から、特定の労組に偏らずに、戦後の国鉄の労働運動史をみようと試みています。ですから、その点では、国労の動きも、動労の動きも、わりあい公平…

急ぎ足

日本近代文学大系の『近代評論集1』(角川書店、1972年)です。 明治期の主だった評論で、個人集にはいらないものを収録しているのですが、石橋忍月と森鴎外が、「舞姫」をめぐってお互いの小説の登場人物の名前でやりとりをしていた時期から20年で、自然主…

変なきっかけ

広島で起きた女児連れ去り未遂事件で、ついつい、1989年の有明での連れ去り未遂事件からどんどん〈発展〉していって、最終的には被告が死刑に処せられた事件のことを思い出してしまいました。 あのときは、すべての話題がそっちのほうにいってしまって、政治…

それをいうなら

宇野常寛・濱野智史の両者の対話『希望論』(NHKブックス)です。 かれらは、現代の日本社会を『拡張現実の時代』ととらえ、新しいコミュニティの可能性を語ります。それは、リーダーがいなくても回る社会であり、非正規雇用でも結婚して子どもを育てられる…

力のいれかた

山田美妙『いちご姫・蝴蝶』(岩波文庫、2011年)です。 長編「いちご姫」(1889年から1890年にかけて雑誌連載)が読みどころということなのでしょう。大きく言えば〈毒婦〉もののつづきものに対して、文学作品として対置しようと作者が試みたものだといえる…

上から

宮本常一『山に生きる人びと』(河出文庫、2011年、親本は1964年)です。 山の生活は、下界から上がってきた人びとが水田耕作にこだわるのとは違い、焼畑や狩猟、木器つくり、砂鉄の生産などにたずさわる、別の生活を送っていたのだということを論じています…

人のふりみて

大澤武男さんの『ヒトラーの側近たち』(ちくま新書、2011年)です。 ヒトラーの周りの人たちの簡単な紹介を重ねて、ヒトラーの時代を描こうというものです。 第1次大戦のあとの、混沌の時代に、ヒトラーが台頭してきた状況をみると、『決められる政治』を追…