比較

ちまちまと、岩倉使節団につきあって、やっとフランスからベルギーに移動したあたり(文庫本3巻の途中)です。
アメリカ・イギリスにくらべると、フランスはプロイセンとの戦争に敗れ、パリ・コミューンの傷跡が残り、という時期にあたっています。政権交代が激しく階級闘争の形でたたかわれたフランスですが、『米欧回覧実記』では、基本的に統治する側からの記述となり、コミューンを乱臣賊子という視点からみているのも、やむをえないことではあるでしょう。そのため、ひとびとが、そこに抱いていたはずの屈折が、表面にはあらわれてこないというのは、今となってはおもしろみに欠けるということにもなるでしょう。
当時の自由民権のひとびとにとっても、フランスの経験は気になるもので、かれらが新しい立憲体制を考えるときに、比較の対象として必ずといっていいほどあげられます。
ただ、敗戦国であっても、使節団がみたパリは、やはり花の都という感じで、産業振興に関しては、当時の最先端の国だったことにちがいはありません。ゴブラン織りを紹介する実記の記述は、ヨーロッパの技術の、大量生産に適したポイントを、きちんとみつめています。