2012-01-01から1年間の記事一覧

こういうときに

姜在彦『朝鮮儒教の二千年』(朝日選書、2001年)です。 儒教となっていますが、実質的には政治思想から見た朝鮮半島史といってよいもので、伝説時代から大韓帝国滅亡までの時期を通覧することができます。 著者は、とくに李朝時代の、朋党の争いを不毛なも…

もっと強く

赤坂真理さんの『東京プリズン』(河出書房新社)から考えたのですが(主人公がアメリカで『天皇に戦争責任がある』という論題でのディベートを行わされる場面があるので)、ディベートというのは、〈討論を通じて新しい認識に到達する〉ことを禁止するゲー…

知らなければ

『コレクション戦争と文学』の〈朝鮮戦争〉の巻です。 昨年だったか、映画〈コクリコ坂〉についてふれたとき、朝鮮戦争で主人公の父親が触雷して亡くなったという設定にかんして、当時の人は知っていたのかということを書きましたが、この本には、もっと深く…

理想の先 

『福永武彦戦後日記』(新潮社、2011年)です。 1945年から47年にかけての福永の日記が収められていて、当時の世相の証言にもなっています。 福永は終戦直後から、加藤周一や中村真一郎たちと新しい雑誌を作り、新しい文学の担い手となろうと決意します。そ…

師弟

清岡卓行『大連港で』(福武文庫、1995年、親本は1987年)です。 著者が1980年代のはじめごろ、大連を訪れたときのことをベースにした連作という仕立てです。後にセリーグ事務局につとめる作者らしく、大連での野球の思い出もあり、田部武雄や松木謙治郎の記…

共存

尖閣諸島に不法上陸した男どもがもっていた旗が、五星紅旗と青天白日満地紅旗の両方だったというのが、ある意味驚くべきことだと思うのですが、そうした関係も、時代によって変わってゆくものでしょうか。

表と裏

井上ひさし『一分ノ一』(講談社、2011年)です。 1986年から1992年にかけて連載されたが未完に終わった作品です。 日本が敗戦後4か国に分断して占領されて40年経ったという設定で、そのなかで日本をもとの統一された国家にもどそうと考える主人公の活躍を描…

読者対象

中川右介さんの『山口百恵』(朝日文庫)です。 芸能人としての山口百恵の時代を追った力作にはちがいないのですが、こういう本は、誰が読むのだろうかとも考えてしまいます。もちろん、当時を知っている人をメインの読者として想定していることに間違いはな…

おくやみです

山田和夫さんが亡くなられたそうです。 直接お会いしたのは、何年か前の文団連の総会のときに、山田さんが記念講演をされたのをお聞きしたくらいかと思います。映画復興会議での活躍もありましたし、何より、「戦艦ポチョムキン」の日本公開のために尽力され…

海と陸

小田実『海冥』(講談社文芸文庫、2000年、親本は1981年)です。 太平洋のいくさにかかわるさまざまな事象を描く連作小説集です。といっても、登場人物が共通するわけではなく、太平洋でのいくさがつらぬくものになっています。 作品が書かれたのは今から30…

横暴

『新潮』で加藤典洋さんが、日本文学を外国語に翻訳する事業への政府の援助が、事業仕分けで廃止されることになったと書いています。 何でも、仕分け側の人間には文学の専門家がまったくいなかったし、そこでの議論も誤ったデータに基づいたものだとか。 パ…

入れ替え

『群像』で原武史さんの連載がはじまりました。「皇后考」ということで、近代天皇制の話をするのでしょう。 最初は、長慶天皇を歴代に数える際に、神功皇后を歴代からはずすことが同時になされたという考察がおこなわれます。『日本書紀』にもきちんと巻を割…

まくら

神奈川近代文学館で、中野重治の特別展が開催されていました。 その企画の中に、1979年に中野が亡くなったときの葬儀の様子を記録した映画の上映がありました。 その映画は、最初に神山茂夫の葬儀(か、しのぶ会のたぐいかはよく知らないのですが)であいさ…

戦略

斎藤美奈子さんの『妊娠小説』(ちくま文庫、1997年、親本は1994年)です。 斎藤さんは、やはり『モダンガール論』が一番だろうと思うのですが、この作品は、話題づくりとしてはよく考えられていると思います。結局のところ、日本の近代文学が、男にとって都…

ひとすじ

玉造修さんの詩集『高校教師』(コールサック社)です。 作者は、長く茨城県の県立高校で化学を教えています。定年を迎えたのだそうですが、再雇用でいまも教壇にたたれているとか。 文学に志したのは、そんなに昔のことではないようですが、詩集には、赴任…

ブランド

岩波文庫の『米欧回覧実記』(全5冊、1977年から1982年)を少しずつはじめました。 最初のほうで、カリフォルニアワインの醸造所を見学したとき、瓶をフランスから、コルクをスペインから輸入していると聞いて、筆者は、ブランドのもつ意味を考えます。長期…

時系列

新潮社の『日本鉄道旅行地図帳』の最新刊、「乗りつぶしノート」の第2弾が出ました。この間の最新状況に対応したもので、常磐線や大船渡線の不通区間が明記されたり、九州新幹線のルートや駅が記されたりしています。 けれども、地図だけなので、いつ、どの…

ころがす

岩波文庫『白楽天詩選』(全2冊、川合康三訳注、2011年)です。 日本人は漢文を訓読するという、外国語受容としては変わったかたちのうけいれかたをしてきました。それが漢詩の場合、特に詩吟というかたちで、語調を重んじるものになっていきます。 しかし実…

道のり

風見梢太郎さんの『海蝕台地』(ケイ・アイ・メディア)です。 10年くらい前に『女性のひろば』誌に連載された作品ですが、今回本になりました。ある大きな通信会社の研究所で、思想差別を受けながらも屈しないで研究をつづける主人公が登場します。その中に…

ひと山越えて

林田遼子さんの『風綿』(本の泉社)です。 作者が中学を卒業して勤務した紡績会社のこと、夫と不和になって自立をめざした働いたこと、心を病んだ妹とのこと、と作者の生活に取材した作品をあつめた短編集です。特に、妹の発病と死を描いた作品が、兄夫婦と…

残念なことに

いわき市だかの製紙工場で、再生紙をつくるために故紙を溶かすかまに、労働者が落ちて亡くなったとか。 葉山嘉樹の「セメント樽の中の手紙」を思い出してしまいました。こうした災害をなくすための努力はどうだったのでしょうか。

手を下す

ケーブルを契約しているので、〈日本映画専門チャンネル〉を視聴することができるのですが、最近の『蟹工船』をやっとみることができました。といっても、時間を調整しそこねて、最初のほうは見られなかった(松田龍平の演じる人物がロシア船に救出されると…

世代

絲屋寿雄『自由民権の先駆者』(大月書店、1981年)です。 大逆事件で死刑にされた奥宮健之の生涯を追ったものです。奥宮は、1857年生まれなので、幸徳秋水より14歳年上ということになります。ですから、キャリアも長く、国会開設が決まった直後から自由党で…

封印

申京淑さんの『母をお願い』(安宇植訳、集英社文庫、2011年、原本は2008年)です。 ソウルにやってきた老夫婦が、地下鉄の駅ではぐれ、妻が行方不明になります。その娘・息子・夫などの視点から、母や妻をめぐっての記憶がよみがえり、自分たちの半生をふり…

ことばのゆれ

笠松宏至さんの『法と言葉の中世史』(平凡社ライブラリー)です。 中世の文書に出てくることばの使い方をめぐって、そこに流れるひとびとの意識をさぐります。 文書が残っていてこそのものですが、それを分析する手並みに感嘆します。 歴史学の深さも考えさせ…

わかりやすさ

村上龍さんが以前『新潮』に書いた「キャンピングカー」という作品がありました。定年退職後は妻とキャンピングカーに乗って全国を旅したいと考えていた主人公が、妻から拒否され、再就職を試みるも、営業一筋で生きてきた主人公を営業職として受け入れる会…

交友

『文學界』8月号に、高澤秀次さんが「近代女性文学の百年」という論考を載せています。樋口一葉・岡本かの子・宮本百合子・野上弥生子を中心に取り上げています。なかでも、百合子と弥生子に焦点があたっているように見えました。ちょっと前にも、岩橋邦枝さ…

棄民

『北朝鮮へのエクソダス』(テッサ・モーリス-スズキ著、田代泰子訳、朝日文庫、2011年、親本は2007年)です。 1950年代末から行われた北朝鮮への〈帰還事業〉に関して、日本政府の中に〈厄介払い〉をしたいと思っていた向きがあって、それがこの事業を後押…

地名

森浩一さんの『萬葉集に歴史を読む』(ちくま学芸文庫書き下ろし、2011年)です。 万葉集の歌を史料としてとらえようとするもので、歴史書からこぼれそうなものをいろいろと引きあげています。 そこであらためて思うのですが、歌の中に出てくる地名も、つい…

仕事の内容

伊井直行さんの『さして重要でない一日』(講談社文芸文庫)です。 表題作は1989年、併収の「星の見えない夜」は1991年の作品です。 いずれも、伊井さんのいう〈会社員小説〉にあたるもので、会社内の人間模様をえがくことを主眼にしています。伊井さんのい…