上から

宮本常一『山に生きる人びと』(河出文庫、2011年、親本は1964年)です。
山の生活は、下界から上がってきた人びとが水田耕作にこだわるのとは違い、焼畑や狩猟、木器つくり、砂鉄の生産などにたずさわる、別の生活を送っていたのだということを論じています。秋田のマタギなどは有名ですが、そうした人びとはいろいろなところに住んでいたようなのです。
そこで思い起こしたのが『もののけ姫』です。あの作品も、アシタカがヤックルに乗ってみちのくから中国路へと進んでいきますが、尾根道のようなところを通り、下界のひとたちとはほとんど接触しません。そして、エボシ率いるたたら場に出くわすわけです。鉄をつくる人びとが、山の中に農耕とはあまり縁のない生活をしているなど、宮崎駿さんはこれを参考にしたのでしょうか。網野善彦的な世界かと映画を観た時には思っていたのですが、網野さんは文献史家ですから、民俗学からのアプローチである宮本論考のほうが、実際には近いような感じがします。
ただ、いま映像を見直す機会がないのではっきりとは覚えていないのですが、アシタカの村も稲作をしていたようで、アワやヒエを栽培している地域は、『もののけ姫』には出てこなかったように見えます。そこは微妙なのかもしれません。