力のいれかた

山田美妙『いちご姫・蝴蝶』(岩波文庫、2011年)です。
長編「いちご姫」(1889年から1890年にかけて雑誌連載)が読みどころということなのでしょう。大きく言えば〈毒婦〉もののつづきものに対して、文学作品として対置しようと作者が試みたものだといえるようです。室町時代を舞台に、運命に翻弄された女性を描こうとしたにはちがいありません。
ただ、そこが、思う相手と結ばれず、別の男と契りを結んで(なかば強制ですが)からの主人公の心情が、上っ面をなでたようになっているところが、その後あまり評判にならずに終わったのではないかと思われます。表現に凝るのはこの作者の特性ですが、もう少し登場人物の心情を掘り下げるほうに動いていたら、文学史も変わったのかもしれません。