設定の妙

芥川賞受賞作、津村記久子さんの「ポトスライムの舟」(『群像』2008年11月号)です。
雑誌の時には実は放っておいたので、受賞と聞いてあわてて読んだのです。
主人公は奈良に住む30歳の女性。母親と同居しています。化粧品会社の工場に、契約社員として勤めているのですが、それだけでは苦しいので、大学の同級生のやっているカフェでバイトをしたりしています。
そういう日常のなかで、神戸で専業主婦をやっている同級生や、福岡で専業主婦だったのに、夫ともつれあいがおきて、娘を連れて主人公の家にころがりこんでくる同級生もいて、いろいろな女性の姿も描かれます。
主人公は、工場に貼ってある世界一周の船旅のポスターをみて、工場での一年間の収入をためれば、それに参加できるのではないかとも考え、節約もはじめます。
そうした日々の生活を描いた作品なのですが、そういう点では、今の非正規雇用の若者のなかでは、けっこう恵まれたほうに属するのかもしれません。でも、そうした部分に焦点をあてたところに、作者の工夫もあるのでしょう。
おととしの同時期に芥川賞を受けた青山七恵さんも、今回の文芸誌に作品を載せていますが、同じような日常の仕事の場面を描いていても、すこし『ゆるく』感じてしまうのも、簡単に会社を辞めようと考えてしまう人物を主人公にしてしまったところにあるのかもしれません。
津村さんの作品にもどれば、同級生4人の、境遇の違いも、上手に描かれていると思います。そこも、読みどころといえるでしょう。