ふるいにかける

佐伯一麦さんの『芥川賞を取らなかった名作たち』(朝日新書)です。
佐伯さんの住む仙台で行った連続講座をもとにしたということで、選んだ作品に対して、佐伯さんの意見だけでなく、参加者の感想なども含めて文字にされています。
対象とされたものは、芥川賞の候補作にはなったが、受賞がかなわなかった作品で、作者自身も、結局受賞しなかった人、という条件から選ばれました。
太宰治とか、北條民雄とか、吉村昭に、新しいほうでは島田雅彦干刈あがたまで、と多様なものが選ばれています。
芥川賞自体も、戦時中には、大陸への進出とからんだ作品(八木義徳さんの受賞作も、そうした側面があります)が多く選ばれていて、それが戦後一時期中断した一因でもあるのですが、とりあえずは、今の日本文学を支える人たちを多く送り出していることは事実なので、こうした、「隠れた」作品に光を与えていくことも大切なのだと思います。
巻末の候補作リストをみると、こんな人がと思うようなものもあって、それ自身も文学史の一こまなのでしょう。李恢成さんが、4回連続して候補になっても受賞せず、候補連続5回目の「砧をうつ女」で受賞したというのも、これで知ることができました。
このリストをみながら、自分なりの「取らなかった名作」を選んでみるのも、またおもしろいのかもしれません。伊藤永之介の「梟」とか、長谷川四郎の「鶴」とか、そう、佐伯一麦の「ショート・サーキット」もありますよ、というふうにやっていくのもいいでしょう。候補で終わった作品を読むこと自体が難しいのも事実ですが。