ゆとり

『異能の画家 伊藤若冲』(新潮社とんぼの本)です。
もともとは、2000年の、『芸術新潮』誌の特集をもとに、増補をしてできた本だというのですが、若冲(1716-1800)の代表作を、コンパクトに見ることができます。表紙カバーの「百犬図」はなごみますし、大根をお釈迦様に見立てた涅槃図も、味わいがあります。
生没年をみていただければわかるように、彼の生きた時代は、18世紀後半という、「穏やかな」時代です。もちろん、飢饉も災害もありますし、百姓一揆も起きています。けれども、前に与謝蕪村についてふれた本をとりあげたときに、18世紀の穏やかさについて書いた記憶がありますが、当時の上方の町人たちの中にあった、ある種の「ゆとり」の存在は、考えておくべきなのでしょう。
ただ、彼の晩年に京都の町は大火に襲われ、それが画業にも影響したというのですから、安定を保つことはむずかしいのでしょう。