ことばの系統

その時歴史が動いた」で、取り出してみたのが、言うまでもなく、『アイヌ神謡集』(岩波文庫、1978年、親本は1923年)です。
ご存知、知里幸恵(1903-1922)の訳になる、アイヌ民族のカムイユーカラの中からの選集です。対訳形式になっているので、アイヌ語の発音もしのぶことができます。今にして思えば、80年以上も前に、アイヌの伝承を日本語訳にするときに、ローマ字で発音を表記して対訳本にするというアイデアの先駆性に、あらためて思いをいたします。
巻頭の、梟の神がうたったといううたの最初が、「銀の滴降る降る…」ではじまるものなのですが、「Shirokanipe ranran pishkan, kokanipe ranran pishkan」なんですね。「銀」「金」にあたることばは、どうも日本語から借用したような感じです。
交易で身を立てていたアイヌ民族が、銀や金を知らないはずはないのですが、アイヌ語を考えるときに、こうした日本語からはいりこんできたことばなのか、そうでないのかとか素人考えでも考えると、けっこう複雑なところも感じます。縄文時代は北海道も本州も同じ文化圏にあったからといって、そのときのことばが今のアイヌ語の源流ともいいきれませんし、岩手や秋田あたりにまであるアイヌ語由来の地名(阿仁川をさかのぼると、「笑内(おかしない)」とか「比立内(ひたちない)」とか駅名にありますし)の問題もあるし、けっこうまだまだ解明が待たれることも多いようです。
いや、松平さんが「ぎんのしずく」「きんのしずく」と読んだから言っているわけではないのですが。