最後に残るは

吉村昭さんの『陸奥爆沈』(新潮文庫、1979年、親本は1970年)です。
しばらく前に、岩田豊雄獅子文六)の『海軍』だとか、丹羽文雄の『海戦』だとかを続けて読んだので、そのときにあわせて買っておいたのですが、1943年におきた、戦艦「陸奥」の爆沈の実相を、1969年に追求していったというストーリーです。
26年前の事件というと、今にあてはめると、日航機の羽田沖での「逆噴射」だとかの年ですから、戦争をへていたとはいえ、作者は「陸奥」の一件にかかわった人たちから、直接の証言を得ています。
事故を調査した海軍の委員会が、どういう結論を出したかは、ネタバレになりそうなので避けますが、それをさぐる過程で、作者は、それまでにも日本海軍では何度か爆発事故が起きていて、それが、けっこう人為的なものである(意図的にせよ、過失にせよ)だということを知るのです。事故として有名なのが『三笠』の事故ですが、これも艦内で業務用アルコールを薄めて飲もうとした兵隊が、そのときに誤って火薬に引火させたのがきっかけだそうです。
どんなに危機管理のシステムを完備させても、人間が中からそれを破ることは可能であるということは、覚えておかなければならないのですね。