雰囲気づくり

笠原十九司さんの『「百人斬り競争」と南京事件』(大月書店)です。
笠原さんは、当時の全国各地の新聞記事を材料にして、「百人斬り」が決して、被告として裁かれた人だけの問題ではなく、当時の日本軍が、日本刀を使って中国人を斬ることが、ある種の風潮となっていたことを明らかにしています。同時に、中国側が、「百人斬り競争」を中国への攻撃として象徴的な意味をもたせていく過程で、情報の微妙なずれが起きていて、実際とはちがった受け止められ方をしたことも明らかにしています。その点で、中国側にも、事態への不正確な認識があったこともみえてきます。
それにしても、当時の新聞報道は、たしかにいくさをまるでスポーツのように扱っているようにも見えます。こうした報道で、「熱狂」が作られ、それをあおるような形で、ますます戦場での行動がエスカレートしていくというのは、今の日本のマスメディアにとっても、過去のこととは言い切れないのではないでしょうか。
以前、斎藤美奈子さんの『モダンガール論』(文春文庫、2003年、親本は2000年)でも、当時の戦争への「のり方」を、ワールドカップのサポーターと大差ないものとした記述がありましたが、メディアのあり方は、慎重に考えていかなくてはいけません。三浦元社長が「自殺」したというのも、ある意味では、メディアの問題でもあるのですし。