多才

小林信彦さんのつづきで、『紳士同盟ふたたび』(扶桑社文庫、親本は1984年)です。前作の続編で、あいかわらずのコン・ゲームなのですが、今回の文庫本には、小林さんが1960年代末に書いた、「深夜の饗宴」というミステリー作家論が収録されています。「深夜の……」といえば、1950年代から60年代に書かれた、中村真一郎福永武彦丸谷才一の3人による海外ミステリー紹介の、『深夜の散歩』(いろいろな版がありますが、最新のものは扶桑社文庫)を思い出します。小林さんのタイトルも、それを意識してはいるでしょう。
その中に、坂口安吾がはいっています。坂口安吾といえば、石川淳とともに、「無頼派」としてくくられはしましたが、探偵小説や捕物帖にも才能を発揮したことは、よく知られていることでしょう。競輪だかなんだかで、税務署と対決したり、死ぬ間際には『新日本文学』かどこかで中野重治と対談したり、長生きすれば、けっこうマルチタレント的な要素もあったのではないでしょうか。そういう意味では、野坂昭如の先駆者みたいなかんじなのでしょうか。