長いようで

島村輝さんのブログで、生保会社の破綻と徴兵保険についてふれています。徴兵保険といえば、『現代リアリズム短篇小説選』(新読書社、1964年)に、石川冬子さんのそのものずばり、「徴兵保険」という短篇が収録されていたことを思い出しました。1941年生まれの長男にかけた「徴兵保険」が満期になったので、「500円」の保険金を受け取りに来いという保険会社からの連絡を受けて、母親が保険会社をたずねて、ひどい扱いを受けるという作品なのです。20年という年月は、長いようで短いもので、1941年当時の500円が、1961年に満期を迎えるわけです。この間の日本の変化が、『徴兵』『500円』というところをキーワードにして展開されているので、読み手としては、現代にいきなり、忘れかけていた過去を見出すというしくみになるのです。
1960年の安保闘争が、あれだけの盛り上がりをみせたのも、戦争が終わって15年という時間でしかなかったということも、大きな要因だったのでしょう。現代にあてはめてみれば、湾岸戦争もすでに17年前になっています。そう思うと、今の時代というものは、時間の流れが速いのでしょうか、遅いのでしょうか。長い視野をもって、そうした表層的なものに、一喜一憂しないことが大事なのかもしれません。