結託

立松和平『今も時だ・ブリキの北回帰線』(福武文庫、1986年)です。収録作品の初出は出ていないのですが、1978年刊行の単行本が初刊だと記されています。
表題作は、暴力学生(黒いヘルメットだそうです)が占拠する大学で、ジャズピアニストがコンサートを開く、それも、講堂からピアノを教室に持ち込んで行うというのです。もちろん、それだけでは作品になりませんから、ピアニストの独白という形で、みずからの病む胸のことや、満洲から引き揚げてきた父親の話がくりこまれ、作品としての深みを出しています。
そこには、作者自身の体験も投影されているのでしょう。
ところで、文庫の解説は山下洋輔さんが書いていて、このコンサートのピアニストは自分だったということを回想しているのですが、実はテレビの〈ドキュメンタリー番組〉の一環だったというのです。となると、当然、番組の制作者は、少なくともこのコンサートに関する限りは、暴力学生の側に立たざるを得なくなります。そういう形で、メディアも方向性をもっていくのですね。