正攻法

北村隆志さんの『反貧困の文学』(学習の友社)です。
普通の本屋にはなかなか出回りそうにないので、結局、版元のある全労連会館まで行って買ってきました。
漱石の「坑夫」から井上ひさし組曲虐殺」まで、プロレタリア文学や民主主義文学の作品をとりあげ、反貧困をキーワードに作品の読みどころを語っています。日本の近代文学がめざしたものの一端を、きちんととらえた本だと思います。その点で、入門書としても、役にたつことでしょう。

その上で、注文をいいます。

これは、校閲段階で直さなければならないのが、p19に、『動物農場』の作者を「ロバート・オーウェン」と書いてしまったところです。編集側が気付くべきだったでしょう。

評価に同意できないのが、浅尾大輔さんの「ブルーシート」(作品です。本全体ではありません)に対して、「小説の結末は駅頭でのティッシュ配りのアルバイトに託して、人と人とが新たにつながる可能性を示そうとしています」と書いているところです。(p181)この部分は、主人公が自分の敵と味方とを峻別する意識にいたっている部分だと考えられるので、そういった出口の見えない状況を書いたととるべきではないでしょうか。浅尾さんはこの作品では、絶望を描いたのであって、救済など出していない、そこに意味のある作品だととるべきではないでしょうか。

追記
誤解のないようにしておきたいのですが、絶望を書くのも立派な文学だというのは当然の前提です。
(さらに追記
オーウェンオーウェルに関しては、正誤表がはさみこまれるようです。