かけあい

旧版『荷風全集』(岩波書店)第27巻(1965年)です。
この巻は、談話筆記と合評会なのですが、この合評は、1920年前後の演劇に関するものなのです。全集の後記によれば、『新演芸』という雑誌に掲載されたもので、メンバーは、岡本綺堂とか、池田大伍や、久保田万太郎小山内薫などが常連になっています。批評も、脚本のよしあしからはじまって、舞台装置のつくりかたにも目を配り、その上で、役者の技能の評価になります。その点で、ある意味舞台裏の事情もでてきたり、新作の場合には作者も登場して参加者の批評を聞くという、当時の演劇の、ある意味最先端のものではないかとも思います。
扱われるものは、かれらの関係から、左団次(1920年代の終わりにソビエトロシアに行った人ですね)の関係のものが多いのです。また、その関係で、前進座をつくる前の長十郎の評価がされていたり(荷風前進座を作った長十郎を、日記の中では、あいつはへたくそなのに旗揚げするとは生意気だというようなことを書いていたと、おぼろに記憶していますが)、小山内薫の作、「第一の世界」に出演した山本安英子(と書かれています)が、小山内から「台詞が一番正しく言へるので、あの人をとつたのです」と、後年の成長を予測されることばがあったりと、意外なつながりもみえます。
関東大震災の直前で終わっていますが、こうしたもののうえに、築地小劇場などの、新劇もうまれたのでしょう。合評のなかで、観客にも勉強してほしいという趣旨の発言が、いろいろな人からされているのも、文化の発展の意味から、考えるべきものがあるようです。